第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
「気になるものがあったら遠慮をするな・・・」
「はい!ありがとうございます」
キリカがこくこくと頷いた。まるで童女のような仕草に、黒死牟は笑むように双眸を細めるのであった。
「次はどうする・・・?」
「えぇっと、次はですね・・・。あ!あのお店を見てみたいです」
キリカが示した先には文庫本や婦人雑誌を扱った露店があった。
「わかった・・・。私はここにいる・・・。荷物を預かっておこう・・・。ゆっくり見て参れ・・・」
「はい」
言うなり、キリカは小走りで駆けていった。
「何かあったら・・・、すぐに呼べ・・・」
「はーい!分かりました」
立ち止まったキリカが振り向いた。手をひらひらと振る。
「やれやれ・・・、まだまだ、子供だな・・・」
キリカの姿が人混みに呑まれていくのを見つめながら呆れたように呟いた。
「ちょっと、そこの旦那」
「・・・私の事か・・・?」
背後から男の声がした。嫌らしさの滲み出た下品な声だ。振り向けば数人の酔漢が立っている。酒臭い呼気に黒死牟は眉をしかめた。
「旦那、ずいぶんと別嬪さんを連れているね。何処の店の子だい?」
「いいねぇ、あんな綺麗な子と」
「俺の相手もして欲しいねえ」
「紹介しておくれよ」
どうやらキリカを盛り場で働く類いの女性と勘違いしているようだ。
「すぐ返すから、ちょっと貸してくれよ」
「幾ら払えばいいんだい」
黒死牟が何も言わないのを肯定と受け止めたのか、聞くに堪えかねない猥言を口にしては盛り上がっている。
下卑た笑いが一斉に弾けた時。
ざわり・・・・。
漂う空気が変わったように感じたのは決して錯覚ではあるまい。
「ひぃっ・・・」
男達は、ひしゃげた声を上げた。酒の酔いが乾上がるように消えていく。
血まで凍りつきそうな禍々しい威圧感。それを発していたのは。