第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
「わあ・・・、すごいですね」
祭り囃子の音。所狭しと並んだ露店。道行く、着飾った娘たち。色とりどりの浴衣が、宙を舞う蝶のように華やかだ。
あらゆる物に興味を惹かれたキリカが、はしゃいだ声を上げた。
「・・・・」
黒死牟の唇が微かな笑みを刻む。
祭りに興ずるキリカは子供のように無邪気だ。満面の笑みを浮かべ、惣闇色の瞳をきらきらと宝玉のように煌めかせて。
こんなに喜んでもらえるなら祭りに連れてきて本当に良かったと、心の底から思うのであった。
「あっ」
突如、キリカが小さな声を上げた。それきり、歩みを止めてしまう。「如何した・・・?」という黒死牟の問い掛けにも答えない。
「・・・・・」
キリカの視線の先には一軒の屋台。ままごとの道具や人形などの玩具を並べてある。それらを食い入るように見つめたまま、微動だにしない。
「キリカ・・・、突然、どうしたと言うのだ・・・?」
「申し訳ありません・・・・」
我に返ったキリカが小声で詫びた。そして、はにかむように微笑むと再び視線を屋台に向けた。
「子供の時、こういうものと縁が無かったんです。ついつい気になってしまって・・・」
「気になるなら買えばよい・・・」
「えっ?いいんですか?」
キリカが頓狂な声を上げ、黒死牟の顔を見た。
「せっかく来たのだ・・・、遠慮をするな・・・」
「ありがとうございます。では・・・」
黒死牟の言葉に甘える事にしたキリカは人形やままごとの道具を数点選んだ。
「これをお願いします」
「はいよ」
露店の主は玩具を可愛らしい包み紙で包むとキリカに手渡した。
「ありがとうございます」
破顔させたキリカは玩具を抱き締めるように抱えた。黒死牟に謝意を何度も述べる。