第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
「貴様ら・・・」
低く押し殺した声音は凄まじい怒気を孕んでいた。
「言いたい事は・・・それだけか・・・」
見開かれた双眸に燠火のような怒りが宿る。気圧された男達が、その場にへたり込んだ。
「ひぃぃぃっ」
「助けてくれえっ」
情けない悲鳴を漏らす者。腰を抜かした仲間を引きずっていく者。恥も外聞も何もない。醜態を晒しながら男達が散らばっていく。
「全く・・・」
改めて周囲を見回せば、キリカの顔をちらちら盗み見る者、隣りに立ち、不躾に覗き込んでいる者さえいた。
今宵のキリカの美しさは格別であった。その美しさは人混みの中にあっても際立っていた。
だが。当のキリカは少しも気にする様子はない。手にした雑誌の表紙に、ひたすら真剣な眼差しを向けている。男から向けられる欲望の視線など、まるで気にならないようだ。
「・・・」
小さく吐息を洩らすと、キリカの背に視線を向けた。不粋な輩が近付けば、無言で睨み据える。
「巌勝様!」
ほどなくして、キリカは戻ってきた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません。周りのお店も覗いてしまいました。親切な方が多いんですね、皆さん、おまけを沢山くださって」
頭に兎のお面、左右の手に持ちきれない程の戦利品を抱えていた。
呑気なものだ。その美貌がどれ程、男達の目を惹き付けるのか知らないのだから。
「キリカ・・・」
「はい。何ですか?」
「お前は・・・」
どおん!
黒死牟の言葉は花火の音に掻き消された。
それを皮切りに、夜空に花火が次々と上がる。赤、青、黄、緑。夜空に鮮やかな大輪の花が咲き、散っていく。刹那の煌めきが儚くも美しい。
「きれい・・・」
花火を間近を見るのも初めてであった。打ち上げられていく花火をキリカはうっとりと眺めていた。
「凄いですね、巌勝様。私、花火をこんなに近くで見るのも初めてです」
「・・・・」
「巌勝様・・・?」
返事がない事を怪訝に感じたキリカが再度、問い掛けた。そして、自身に注がれる、思い詰めたような眼差しにキリカは短く息を呑んだ。