第2章 夢惑う乙女
(やーい、みなしごのキリカ!)
(みなしご、みなしご)
(お前、ゴミと一緒に捨てられていたんだって)
複数の子供達が囃し立てる声がした。
「これは・・」
キリカを待ち受けていたのは、幼少の時の嫌な思い出だった。捨て子だったキリカは、村の子供達の心ない言葉にいつも泣かされていた。
この時代、孤児や捨て子は珍しくはなかった。が、キリカは幼少の頃から人目を惹く、美しい容姿をしていた。
何もしていなくても目立つ彼女を妬む存在はたくさんいた。
歩けば嘲笑に囲まれ、ひどいときは物が飛んできた。
助けてくれる人は誰もいなかった。毎晩、月を眺めるのが唯一の慰めだった。それが、キリカの過去。
「どうして、今頃・・・」
キリカは呆然としながらも耳を塞ごうとした。容赦ない罵声が自分の回りをぐるぐる回っているような錯覚すら覚えた。
「ひっ・・」
すくむキリカに、悪夢は更に追い打ちをかけてきた。すぐ背後に、鬼が迫っていた。がしりと髪を掴まれ、生臭い息がかかる。
「いやぁぁぁっ」
絶叫を上げた。同時に夢の中の鬼や子供達が輪郭を失い、飴のように溶けていく。
「い、今のは・・」
キリカは自らの絶叫に驚き、目を覚ました。はぁっ、はぁっと荒い息をつき、自身の無事を確かめた。
(なんて、夢なの・・・)
脂汗でじっとり湿った夜着は肌に貼り付いて気持ち悪かった。無意識のうちに叫んでいたせいだろうか、喉もカラカラに干上がっていた。
「如何した・・?今の声は・・・、何があった・・・」
悲鳴を聞き付けた黒死牟がやって来た。
「黒死牟様・・」
身体を抱え起こされたキリカはされるがままになりながら、枯れた喉から声を絞り出した。
「な、何でも・・ありません・・。大丈夫・・です」
「あれだけ大きな声を出して・・何でもない訳がなかろう・・」
「・・申し訳・・ありません、こんな夜中に・・。驚かせてしまいましたよね・・」
喘ぐようにキリカが答えた。まだ、息が荒い。額に張り付いた前髪が邪魔だったが、掻き分ける気力も無かった。
「気にするな・・。それにしても、ひどい声だな・・。少し待つがよい・・」