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月神の恋人 【鬼滅の刃 黒死牟 R18】

第2章 夢惑う乙女


しばらくして盆を手にした黒死牟が戻ってきた。

「飲むがよい・・。落ち着くぞ・・」

「ありがとう・・ございます・・」

差し出された茶器を受け取った。キリカが好きな茶だ。温めに淹れてあり、キリカは一気に飲み干した。

「もう一杯、飲むか?」

「お願いします」

茶の香りと、ほんのりとした温かさがキリカの心に落ち着きを取り戻していく。何より、黒死牟が側に居てくれるのが心強かった。

「少しは落ち着いたか・・・?」

「はい・・。おかげ様で少し落ち着きました・・」

声は滑らかに出るようになったものの、顔には色が無かった。

「で・・・、何があったのだ・・?」

「・・・・」

キリカが、ふっと目を反らした。どこまで言ってよいものか、考えあぐねているのだ。

「キリカ・・・」

「はい・・・」

名前を呼ばれたキリカが、黒死牟の顔を見上げた。黒死牟はキリカの真正面に腰を下ろすと目線を合わせた。

「私では、お前の力になれぬか・・?」

黒死牟の言葉に、キリカが目を見開いた。躊躇うような視線を向けるキリカに黒死牟は頷いてみせた。

「・・・夢を見ました・・・」

キリカが重い口を開いたのは、かなり時間が経ってからであった。その間、黒死牟は急かす訳でもなく、静かにキリカと相対していた。

「夢・・?」

「はい。夢の中で私は鬼に追いかけられていました・・」

キリカはどこまで言おうか迷いながらも言を継いだ。

「夢の中とは思えない程、生々しくて怖かったです。途中で私は助けを求めましたが、其処に居たのは・・」

キリカが言葉に詰まった。組んだ指先に、痛い程の力を込めた。何とか、言葉を押し出そうとするかのように。

「子供の頃、私を虐めていた人達でした・・・」

キリカの顔が、さっと陰りを帯びた。これから言おうとしているのは、自身にとって、とても辛い記憶。思い出す度に、心を鋭い刃物で切り裂かれるような。それでも、キリカは続けた。

「私は捨て子なんです。名前もつけられずに捨てられていました」

キリカの口調は、どこまでも淡々としていた。まるで他人事だと言うかのように。


















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