第11章 十三夜の抱擁
はにかむように微笑んだ。可憐な表情に黒死牟は目を見張り、そして細めた。
今宵のキリカが纏っているのは金糸の刺繍が施された真珠色の着物。降り注ぐ月光を浴び、まるで裡から目映い光を放っているかのようであった。
闇を跳ね返すような天成の清らかさ。闇に紛れ、人の地肉を漁る己には眩しすぎる存在だった。
たとえ、不釣り合いであっても構わない。キリカに誰よりも必要とされたい。己だけを見ていてほしい。
黒死牟がキリカの頬に手を添えた。真摯な光を湛えた真紅と黄金の六つ眼が、キリカの眼差しを捕らえる。
「キリカ・・・」
吐息がかかりそうなほど近付いた二人の唇が、そっと重なる。
「お前は・・・、私だけのものだ・・・。誰にも私はせぬ・・・」
キリカの身体を引き寄せ、抱きすくめた。離した唇を耳元に寄せ、囁いた。
「巌勝様・・・」
低い声音が、耳に、身体に心地好く染み込んでいく。うっとりとした表情のキリカが、黒死牟の背に手を回した。
「お前に・・・、名を呼ばれるのが好きだ・・・。もっと呼んで欲しい・・・」
「巌勝様・・・」
乞われ、キリカは黒死牟の名を呼んだ。花びらを重ねるように、何度も。
「私も貴方に名を呼ばれるのが好きです。呼んで下さい。巌勝様・・・」
「キリカ・・・」
ひとしきり、互いの名を呼び合う。視線を交わし、再び唇を重ねた。
一つになった影を十三夜の月の光が優しく照らしていた。