第11章 十三夜の抱擁
涙が溢れ落ちそうになるのを堪えながらキリカは絞り出すように言った。
「申し訳ありません。泣くつもりはなかったのですが、止まらなくて・・・。見苦しいですよね?」
「キリカ・・・」
精一杯、微笑むキリカの白磁の頬を涙が伝う。黒死牟は指で綺麗に拭ってやりながら続けた。
「それは・・・、私も同じだ・・・。おまえと過ごす日々は他の何物にも替えがたい・・・。だが・・・、人の道を外れた外道の身でありながら・・・、幸せを享受してよいのかと・・・・」
「巌勝様・・・」
キリカが悲しげに表情を歪めた。黒死牟が自身を卑下しているのを聞くと、何ともやりきれなくなる。今まで何度も助けてもらった。孤独を感じた時は隣りに寄り添って居てくれた。
「そんな悲しい事をおっしゃらないでください。あなたは外道などではありません」
一度も怖いと思った事はない。信頼、尊敬、無上の愛情。今、抱いている感情を全て伝えたかった。
「巌勝様に初めてお会いした時、月の神様だと思ったんです。こんなに美しい男性がいらっしゃるのかと驚きました」
キリカが黒死牟の顔に手を伸ばした。端正な面をじっと見つめる。
「心の底から、お慕いしております。何度、口にしても足りないぐらいです。いつまでも、ずっとです」
「私もだ・・・。それに・・・、私もおまえと初めて会った時・・・、花の精かと思った・・・」
二人が初めて会った夜。鬼が現れると言われている山に足を踏み入れる人間など稀だった。物珍しさに目を向ければ、その美しさに目を奪われた。襲っていた鬼を倒し、気付けばキリカを屋敷に連れ帰っていた。
「そんな・・・」
困ったような、照れたような面持ちでキリカが呟く。その頬は紅く染まっていた。
「おまえは・・・、本当に美しい・・・。容姿だけでなく心根も全て・・・」
咲いていた白い天竺牡丹を一輪、折った。キリカの結い上げた髪に、そっと挿してやる。
キリカが「わぁ・・・」と嬉しそうな声を上げた。花弁に劣らぬ白い指先で、そっと触れる。
「ありがとうございます、巌勝様」