第10章 ※雷が結ぶ夜※
畏怖の対象である筈の六つ眼も其処にあるのが当然かのように、しっくりとくる。少しも美しさを損なう事はない。
共に過ごすようになってから、もう少しで四ヶ月が経つ。見慣れた筈なのに、こうやって面と向かうと見とれてしまいそうになる。胸が甘く高鳴る。
「それにしても・・・」
「何ですか・・・」
「おまえの悲鳴がしたから何事かと思えば・・・、雷が怖いとはな・・・」
笑いを噛み殺すように黒死牟が言った。
「あんな大きい音で鳴れば誰だって怖いですよ。巌勝様は怖くないんですか?」
「私は平気だ・・・」
「本当ですか?一度も怖いと思った事はありませんか?」
雷は今も上空で猛威を奮っている。取り乱さないのは黒死牟と一緒にいるからだ。一人ならば、きっと今頃、悲鳴を上げながら隠れる場所を探しているに違いない。
「それは無い・・・」
重ねて訊ねてくるキリカに、黒死牟は至極あっさりと返した。キリカは毛頭信じられぬ、と言った風情である。
「私は駄目です。生きた心地がしません」
「ふむ・・・。怖くはないが・・・、先程、おまえの悲鳴を聞いた時は・・・、屋敷の中で雷が鳴っているのか、と少々驚いたがな・・・」
「それはっ・・・」
からかわれ、キリカが頬を、かぁっとさせる。黒死牟はそんなキリカを見て、喉の奥で笑った。
「だって、本当に怖かったんです。一人だったら絶対に耐えられません」
「そうか・・・」
黒死牟が短く呟き、立ち上がった。空気も揺らさずにキリカのすぐ隣りに腰を下ろした。
「巌勝様・・・」
見上げたキリカの頬に手を添えた。視線を己の方に向けさせる。
と、その時。
ゴロゴロゴロ、ゴオオオン。
「きゃああっ」
思わず、黒死牟の懐に飛び込んでいた。夜着の袷を掴み、胸元に強く顔を押し当てる。
「こんなに震えて・・・、そんなに怖いのか・・・」
小刻みに震えるキリカの身体を抱き締めた。キリカは顔を胸元に寄せたまま頷く。黒死牟の袷を、ぎゅうっと掴んだ。
黒死牟はキリカの頭を撫で始めた。いつものように、子供をあやすように優しく。