第10章 ※雷が結ぶ夜※
バリバリバリと凄まじい轟音が聞こえた。続いて、ズズズと下腹に響くような地響きがした。どうやら近くに落ちたようだ。
「きゃあああっ!」
雷神が怒り狂ったような轟音に、たまらず悲鳴を上げた。両手で耳を押さえた。小説の続きは気になるが、こうなっては読書どころではない。
「みっ、巌勝様っ!」
震える手で灯りを消し、転がるような勢いで部屋を飛び出した。
途中、屋根に叩き付けるような降雷が数回あったが、キリカはその度、「きゃっ」と首をすくめ、立ち止まりそうになりながらも黒死牟の私室に向かう。
やっとの思いで辿り着き、小さく戸を叩いた。
「巌勝様、いらっしゃいますか?」
す・・・、と、静かに戸が空いた。部屋の主が音もなく姿を現す。
「巌勝様!」
「何事だ・・・、キリカ・・・」
「突然、申し訳ありません。雷が怖くて・・・、きゃあっ!」
キリカの語尾が金切り声に変わる。黒死牟の顔を見て安堵の溜息をつく間もなく雷が落ちたのだ。声を遮るほどの落雷に、すっかり生気を失っている。
「分かった・・・、中に入れ・・・」
その低い声律に動揺の色は微塵も感じ取れない。いかなる轟音でも身動ぎ一つしない様はキリカに大いなる安堵を与えた。
「あ、ありがとうございますっ」
キリカは短く謝意を述べると、黒死牟の部屋に飛び込んだ。
部屋の中は闇に包まれていた。キリカを先導するように歩いていた黒死牟が、ふと歩みを止めた。振り返り、キリカを見る。
漆黒の闇の中、六つ眼が鮮やかに、そして妖しい光を放っている。
「今・・・、灯りをつける・・・。少し待て・・・」
室内の灯りを一つずつ灯していく。鬼の視覚は闇を貫き通す。暗闇でも何ら問題はないのだ。
「此処に座れ・・・」
褥の前に円座を置くと、キリカに座るように促した。自らは褥に腰を下ろす。
「失礼します」とキリカは夜着の裾を抑えながら腰を下ろした。
黒死牟の部屋は手入れが行き届いていた。調度の類いは少ないが、いずれも趣味の良さを伺えるようなものばかりである。
「・・・」
揺らめく灯りが黒死牟の顔を照らす。その顔を見たキリカは思わず、息を呑んだ。
整った容貌に濃い陰影が落ち、更に凄みを与えていた。