第9章 ※湯殿の恋契り※
「はぁっ・・・、気持ちいいっ・・です・・・」
胎内のものが膨れ上がるのを感じる。蕩けるような嬌声を上げながら、キリカは背を仰け反らせた。
「んっ、あぁっ、巌勝様っ・・・」
黒死牟が大量の精を放った。キリカは黒死牟の背に回した手に力を込め、熱い迸りを受け止めた。
「・・・・っ、・・・・っ」
全身を戦慄かせ、キリカは登り詰めた。四肢から力が抜け落ち、黒死牟の肩にもたれ掛かる。
「キリカ・・・」
優しく囁きかけた黒死牟が目を見開いた。
「大丈夫か・・・、キリカ・・・」
腕の中で、キリカはぐったりとしていた。肌は茹で蛸のように上気している。呼吸は、ぜいぜいと荒く、激しい。
瞳は虚ろだ。見開いてはいるが、霞がかったように何も映していない。
「しっかりしろ・・・」
頬を軽く叩いてみたが、反応はない。
「ん・・・ぅ・・・」
掠れた声を漏らすと、キリカは首をがくりと折った。それきり意識を失ったようだ。
どうやら逆上せたらしい。黒死牟はキリカの身体を抱き上げると、慌てて廊下を走っていった。
冷たい風が頬を撫でたような気がしてキリカは目を覚ました。
(あれ・・・・?)
どうして布団に寝かされているのだろうか。湯殿で黒死牟と睦みあったのは覚えている。だが、部屋に戻ってきた記憶がない。それに、どうして全身がこんなに重いのだろうか。まるで、鉛のようだ。
「目が覚めたか・・・」
布団の前に座していた黒死牟が心配そうに覗き込んできた。
「巌勝様・・・、私はいったい・・・」
「おまえは・・・、湯殿で意識を失ったのだ・・・。目を覚まさぬから心配したぞ・・・。具合はどうだ・・・」
冷たい水が入った硝子杯を手渡しながら黒死牟が尋ねた。キリカは受けとると一気に飲み干した。これ程、水が美味しく感じられた時があっただろうか。身体に生気が戻ってきたような気がする。
「それは申し訳ありませんでした・・・。少し怠いけど、もう大丈夫です」
キリカの額には固く絞られた冷たい布が載せられている。夜着を着せられ、髪もあらかた乾かされていた。
またもや、迷惑をかけてしまったと申し訳なく思う。いまだ青白い顔に無理に笑顔を浮かべながら詫びた。