第7章 ※梅雨籠の睦事※
庭先で盛りを迎えている、くちなしの芳香をしばし楽しむとキリカはおもむろに立ち上がった。箪笥へと向かう。
薔薇の花と茎を象った引き手に手を掛ける。迷ったすえ、菫色のワンピースを取り出した。
裾に金の刺繍が施された、優美な曲線を描くワンピース。黒死牟と町へ買い物に行った時、買って貰ったうちの一着だが、洋装という事もあり、一度も袖を通していなかった。
「似合うかしら・・・」
姿見の前に立ち、体に当ててみた。
(膝から下が全部出てしまうのね・・。本当に異国の女性はこういうのを着ているのかしら・・)
膝丈までしかない、それに若干の抵抗を覚えつつもキリカは着てみる事にした。
(確か、洋装の時は下着を着けるのね。確か、これとこれを・・・)
着物を脱ぎ捨てると、下着を手に取った。淡い桜色の下着の繊細な造りに、おっかなびっくりしつつも身に付けてみた。
(凄い・・。胸が大きくなったみたい・・・)
形をより美しく、一回り大きく見せてくれる胸当てに感動しつつ、今度は薄い絹の靴下を履き、靴下止めをつけ始めた。最後に、淡い桜色のスリップを着けた。
(これでいいのかしら・・・。初めてだから自信が無いわ・・・)
買った時に教えて貰った付け方を必死に思い出しながら、どうにかこうにか一式を身に付けた。
不安は拭えなかったが、いよいよワンピースを着ようとした、その時。
「キリカ・・・、そこにいるのか・・・?」
「みっ、巌勝様っ!」
廊下から掛けられた声に、キリカはあわてふためいた。身を隠そうにも、どこにも隠れられそうな場所はない。
「入るぞ・・・、キリカ・・・」
「きゃあっ」
キリカは短い悲鳴をあげると、ワンピースで身体を隠し、その場に座り込んだ。
「みっ、見ないでくださいっ」
「どうしたというのだ・・・」
泡を食ったような様相のキリカを怪訝に思いながら、黒死牟は早足で近付いた。座り込んでいるキリカの右腕をとろうとして目を剥いた。
「キリカ・・・、この姿は・・・」
「だから、見ないでくださいと言ったんですっ」
こんな格好を見られてしまうなんて。少しでも身体を隠そうと、キリカは身を捩った。