第6章 ※夜這い星の褥※
「そんな事ないです。私より、巌勝様のお顔の方が・・・」
青白い月光を受けた黒死牟の顔は妖しい美しさを湛えている。
文字通り、人ならざる者が持ちうる完璧な造形。
(本当にきれいな顔立ちをしていらっしゃる・・・)
食い入るように見つめるキリカの胸が甘く疼いた。
(もっと触れてみたい・・・)
黒死牟の髪、肌、唇。
身体の中に欲が生まれる。キリカの指が、黒死牟の顔に触れた。黒死牟が短く息を呑む気配が伝わってくる。
「・・・・・」
唇を重ねた。黒死牟は瞼を閉じると、口付けに応じた。舌を絡め、軽く吸う。
「何とも情熱的な・・・。私を誘っているのか・・・」
「そっ、そんな。誘ってなんていませんっ。」
紅潮させたキリカは視線をさまよわせて口ごもる。初めて契りを交わしてから、まだ数日しか経っていない。
いつも黒死牟の求めに応じるのが精一杯で、まだ自分から求めた事は一度もない。触れてほしくても、「私からなんて、はしたない・・・」と我慢してしまう。
「巌勝様の顔がきれいすぎるのが、いけないんですっ・・」
小さく呟き、黒死牟の顔を見た。まだ、宵のうち。心の準備が出来ていない。始まれば、行為に身も心も溺れてしまうのが恥ずかしくて。何とか、話題をそらせようと躍起になる。
(そう言えば・・・・)
黒死牟の六つ眼。
まるで吸い寄せられるように見つめたキリカの中に、一つの疑問が泡のように浮かんだ。
(聞いてみようかしら・・・)
黒死牟の正体を知った時から気にはなっていたが、聞いてよいものか悩んでいた。良い機会かもしれない。
「あの、巌勝様・・・」
「どうした・・・、キリカ・・・」
「その眼の刻印は・・・」
控え目な問い掛けがキリカの唇から零れ落ちた。
黒死牟の右の瞳には「壱」、左の瞳には「上弦」の文字がそれぞれ刻まれていた。それらが何を意味するのか、キリカは知らない。
「あぁ・・・、これか・・・」
黒死牟は右手を軽く目元に当てると、静かに語り始めた。