第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※
(黒死牟様・・・)
キリカは驚愕を隠せなかったが、今は黒死牟の怒りを鎮めるのが先だった。
「どうかお鎮まりください。私は何ともないのですから」
「しかし・・・、キリカ・・・、」
「私にとっては育ての親なのです。ご容赦を・・」
捨て子だったキリカを拾い、育ててくれたのは女将なのだ。受け入れがたい仕打ちを受けたとは言え、キリカはおいそれとは憎めなかった。何かの間違いであって欲しい、とすら思っていた。
「黒死牟様、どうかっ」
キリカの必死の訴えが功を奏したのか、黒死牟の六つ眼から怒りの色が薄れていく。キリカの両肩から手を離した。
「すまぬ・・・、心無い振る舞いをしてしまった・・・」
「気にしないでください。それより、黒死牟様が来てくださって本当に嬉しかったです。道に迷ってしまった時は、もう二度とお会いできないんじゃないかと。黒死牟様が、いらっしゃらなかったら私・・・」
みなまで言わず、キリカの目尻から涙が溢れる。
黒死牟が傍らにいない日常など、もう考えられない。日がな一日、寄り添っていたい。語り合いたい。
黒死牟は命の恩人であり、孤独だったキリカの心に精彩を与えてくれたのだ。
いつしかキリカにとって唯一無二の存在になっていた。
「キリカ・・・」
優しく名を呼び、涙を拭った。
「黒死牟様、心からお慕いしております」
言うなり、キリカは黒死牟の背に手を回した。しがみつくように力を込める。
「キリカ・・・」
黒死牟が応えた。キリカの背に手を回した。二人の視線が絡み合い、どちらからともなく唇を重ねあった。
「んっ・・」
触れあうような軽い口付けから、徐々に激しい口付けへと変わる。角度を変えては唇を重ね合う。舌と舌を絡め合い、唇の感触を堪能する。
「私も・・・、お前を愛している・・・」
黒死牟の掌がキリカの頬を撫でた。そして、耳元に口を寄せた。
「お前の全てが欲しい・・・」
熱のこもった囁きが落とされる。キリカは静かに頷くと、黒死牟の肩口に顔を押し付けた。照れているのだ。
「キリカ・・・」
愛らしい仕草に、黒死牟の胎内では御しがたい程の情欲が渦巻いていた。