第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※
「・・・・っ」
キリカが慟哭した。それに呼応するかのように外の雨も勢いを増した。
(何があったと言うのだ・・・)
朝、出掛けた時はあんなに楽しそうな顔をしていたと言うのに。
キリカの体を抱き抱える。頭や背をあやすように撫でながら、黒死牟は激しく後悔していた。こんなに辛そうな顔をさせる為に送り出したのではない。あの時、何としてでも止めるべきであった。
何があったか知りたいのはやまやまだが、まずはキリカが落ち着くまで待つ事にした。
「キリカ・・・、お前の涙は・・・、全て受け止めよう・・・」
泣き伏すキリカに優しく語り掛けた。お前は一人ではない。そう言い聞かせるように。
どれぐらいの刻が過ぎただろうか。キリカの慟哭が嗚咽に変わっていった頃。
「・・・・さ、ま」
「・・・・?」
「黒死牟・・さ・・ま」
嗚咽の隙間を縫って、キリカがか細い声で黒死牟を呼んだ。
「どうした・・・?」
「・・・・」
黒死牟の腕の中で、キリカが顔を上げた。血の気を失った、蝋のような顔色のキリカが黒死牟を見上げる。
「私・・・、みんなに会って参りました。みんな、元気そうでした。けれど・・・」
キリカが、酷く辛そうに言葉を切った。続きを言おうとしたが、涙がぶり返しそうになる。
「庄屋様の相手をしろ、と言われました。何とか逃げて参りましたが・・・」
その時の事を思い出し、キリカは声を詰まらせた。それ以上は言葉にならなかった。
「相手をしろ・・・、だと・・・」
怒気を孕んだ、低い声音にキリカがびくりとした。顔を上げれば、六つ眼に恐ろしく剣呑な光を湛えた黒死牟と視線が合う。
「どこの村の連中だ・・・、言え、キリカ・・・」
威圧感と共に問い掛ける黒死牟は怒りで我を忘れかけていた。
「言え・・、キリカ・・・。お前に仇なす連中は生かしてはおけぬ・・・」
両肩を掴まれた。言わねば、許さぬ。凄まじい威圧感に、キリカは呆然と黒死牟を見上げた。
平生、冷静な黒死牟がここまで怒りを露にしている。
まるで嵐のような激しさだ。