第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※
「ここにいたのか・・・、キリカ・・・」
最初、キリカは聞き間違いだと思った。黒死牟に会いたいがあまり、幻聴が聞こえたのだと。
「黒死牟様・・・・」
はっとして顔を上げる。目の前にいるのは、誰よりも愛しい、その人。会いたかった、その人。
「・・・・っ」
わっ、と声を上げながらしがみついた。黒死牟はキリカの体を抱き止めると、腕に力を込めた。強く抱き締める。
「・・どうして、ここが・・」
「何かあったら呼べと言ったであろう・・・」
「ですが、今は・・・」
確かに呼んだ。けれど、今は雨が降っているとは言え、昼間。太陽の光は鬼の弱点のはず。危険を犯してまで、助けに来てくれた。
胸に熱いものが込み上げてきた。涙が堰を切ったように溢れ出す。
「雨だから大事ない・・・。お前は無事か・・・」
問いながら、キリカの顔を覗き込んだ。肩や腕に触れ、異常が無いか確かめる。
「私は何ともありません・・」
「それなら良かった・・・。人間に見られたら厄介だ・・・。行くぞ・・・」
黒死牟は心底、安堵したような吐息を漏らすと、刹那、険しい視線で周囲を伺った。人の気配がない事を確認すると、キリカを横抱きした。
「少々、飛ばす・・・。しっかり掴まっていろ・・・」
「はい」
首筋に手を回し、顔を埋めた。嗅ぎ慣れた、黒死牟の香の匂いがする。
(本当に来てくださった・・・)
感極まり、涙が再び溢れ出そうになる。目を閉じ、指先に力を込めた。離れぬように、強く。
黒死牟がキリカを抱き抱えたまま、駆け出した。風を裂くように速く。
寸刻の後、二人は屋敷の中にいた。
「そのままだと風邪を引く・・。まずは風呂に入ってこい・・。話はそれからだ・・」
黒死牟に促され、キリカは黙って浴室に向かった。その弱々しい後ろ姿を見て、黒死牟は思い切り抱き締めてやりたくなる。が、今は雨に濡れたキリカを何とかしてやるのが先だった。
「キリカ、此方へ来い・・・」
風呂から出てきたキリカを自室に招き入れ、自身の前に座らせた。
「髪は乾かしたか・・・?」
黒死牟の指がキリカの髪に触れた。優しい感触に、堪えきれず、キリカが大きくしゃくり上げた。