第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※
「あんたに頼みたい仕事があるんだよ」
「あっ、はい。今すぐ着替えてきます」
「そうじゃない。あんたの仕事はね・・」
困ったような笑みを浮かべた女将はキリカの腕を掴み、店の裏まで引っ張っていった。
「実は、あんたに相手をしてほしい人がいるんだよ」
「・・・?」
「庄屋様だよ。前からあんたに目をつけていたんだってさ。お手当ては弾むから、今から行っておくれ」
「相手って・・・」
「とぼけたふりをしているんじゃないよ、分かっているくせに」
女将がキリカを軽く小突いた。そして、上から下までジロジロと品定めするように見回す。
「それにしても、いい着物だねえ。その頭の飾りだって、おいそれと買えるような代物じゃないよ。どこぞの旦那をたぶらかしたのかい?」
「そんな・・・、これはっ」
「きれいな人は得だねえ。後で私にも教えてほしいぐらいだよ。ほら、庄屋様が首を長くしてお待ちだよ」
キリカの腕を掴み、庄屋の元に連れて行こうとした。
「嫌ですっ。お断りします」
「そういう訳にはいかないよ。もう、お代は戴いてあるんだ。あんたの頑張り次第では妾にしてくれるって言うんだから悪い話じゃないだろう。捨て子のあんたには勿体ないよ」
目の前にいるのは本当に女将だろうか。キリカの知っている女将は朗らかで、誰よりも働き者だった。狐につままれたような気分で女将を見ていた。
「あんたは子供の頃から本当にきれいだったからねえ。拾ってよかったよ。誰に差し出しても恥ずかしくない。自信を持ちな」
「さあさあ、もう話はついているんだから」
「やめてくださいっ」
ぎり、と音がしそうなほど、女将は腕に力を込めた。
何とか逃れようと、キリカは何度も手を捻ったが、その程度ではビクともしない。
ガッ。
揉み合っているうちに、女将の足を強かに踏みつけたようだ。
「うぅっ」
剥き出しの甲を硬い下駄で踏まれたのだから堪らない。呻き声を上げながら女将はその場にしゃがみこんだ。
「女将さんっ」
慌てたキリカが助け起こそうとする前に、女将は素早く立ち上がった。そのまま、キリカに掴みかかる。