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月神の恋人 【鬼滅の刃 黒死牟 R18】

第2章 夢惑う乙女


夢など一度も見ずに熟睡できたような気がする。

それに、ひとしきり泣いたせいだろうか。心は洗い流したように、すっきりしていた。心の淀みも感じられない。

「申し訳ありません、こんな夜中に・・・。ご迷惑でしたよね」

「迷惑なものか。それより、一人で抱え込むな・・。我慢する必要はない・・」

「はい・・」

黒死牟の声音がキリカの心に染み込んでいく。低く厳かな声音に安らぎを感じる。どうして、この方は嫌な顔一つせず、親身になってくれるのか。

「ありがとうございます・・・」

その一言に、キリカは様々な思いを託した。助けてくれた事への感謝、話を聞いてくれた事への感謝、隣りにいてくれた事への感謝。すべて、うまく伝わる事を願った。

黒死牟は言葉の代わりに、キリカの背に手を滑らせた。優しく撫でる。

「もう大丈夫そうだな。安心したぞ・・・」

黒死牟の目に映っていたのは、昨夜のキリカが泣きじゃくる姿。見る者すべての胸を突くような哀れな姿だった。あんな思いは二度とさせたくなかった。

「ありがとうございます。黒死牟様のおかげです」

無邪気な微笑みに、黒死牟は小さく「ふっ」と笑った。

「では、私はそろそろ部屋に戻る事にしよう・・」

黒死牟が立ち上がる。もうすぐ夜明けだった。戸の隙間から微かな光が漏れている。

「あっ、待ってください」

黒死牟を呼び止めようとして発せられた声が思ったより大きくて、キリカは決まりの悪そうな表情を浮かべた。だが、構わず続ける。

「お礼と言う訳ではないんですけど、今日は私が食事をご用意させていただいてもよろしいでしょうか?黒死牟様と一緒に食事をしたいです」

キリカはにこやかに問いかけた。花のような微笑みに、部屋の空気も彩りを帯びるようだった。

「分かった。では、楽しみにしているぞ・・・」

「腕によりをかけて作らせていただきますね」

黒死牟は、そのまま部屋から出ていこうとしたが、ふと何かを思い出したかのように足を止めた。

「キリカ」

「・・はい?」

「お前の笑顔は良い。まるで春の花のようだ・・」

「!」





(今のは、どういう・・)

黒死牟の残り香の漂う部屋で、キリカは頬を紅潮させていた。

まるで、恋をしているかのように。














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