第14章 月の揺り籠
「巌勝様、これは・・・?」
「薬湯だ・・・」
椀に並々と注がれた緑色の液体は見るからに苦そうだ。鼻腔を刺激する匂いに、キリカは顔をしかめた。
口元に椀を運ぶも、あまりの匂いに飲むのを躊躇ってしまう。救いを求めるように黒死牟を見つめたが。
「飲まねば治らぬぞ・・・」
「は、はいっ・・・」
静かだが圧を感じさせる口調で諭され、肩をすぼめた。
(苦そう・・・。けど、せっかく巌勝様が用意してくださったのだから飲まないと・・・)
意を決したキリカが一息に飲み干した。どろりとした苦い液体が喉を滑り落ちていく。
(うぅ・・・、に、苦いっ・・・)
噎せてしまいそうになるのを懸命に堪えた。口直しに何か欲しいぐらいだ。
「あ、ありがとうございました・・・」
「よし・・・、よく飲めたな・・・」
空になった器を受け取った黒死牟はキリカの頭を優しく撫でた。
「顔色も随分と良くなってきたが・・・、くれぐれも無理をせぬよう・・・」
祭りから帰って来た翌日。雨に濡れたせいか、キリカは風邪を引いてしまったのだ。全身がだるく臥せていたが、黒死牟の献身的な看病によって徐々に回復しつつあった。
「はい。・・・あの、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません・・・」
「何を謝る・・・」
「つきっきりで看病してくださって大変ではありませんか・・・?」
「そのような事はない・・・。気にせず・・・、ゆっくり養生しろ・・・」
「ありがとうございます・・・」
再び、褥に横たわろうとしたキリカの背を黒死牟の手が支えた。
「・・・、それに・・・」
「巌勝様・・・?」
呟きは重く、沈んでいた。何事だろうか。訝しげに眼差しを向けた先には、張りつめた面の黒死牟がいた。