第14章 月の揺り籠
「詫びなければならぬのは私の方だ・・・。お前に風邪を引かせてしまうとは・・・、面目ない・・・」
「そんな・・・」
「前にも言ったが・・・、私はお前に無体を働いているのではないかと・・・。気を付けていたつもりだったが・・・何も改善されておらぬ・・・。情けない事だ・・・」
二人は毎夜の如く、契りを交わしている。鬼の体力と精力は人間の比ではない。愛おしいと思うあまり、行為は長く、激しいものになってしまう。
キリカは決して拒まない。が、内心はどうだろうか。すっかり辟易しているのではないか。
「もっと気を遣わねばならぬのにな・・・」
「いいえっ!」
身体を跳ね起こしたキリカが黒死牟の手を取った。包み込むように己の手を重ね合わせる。
「私には勿体ないぐらい大事にしていただいています。だから、お気になさらないでください・・・」
途中、くらりと目眩がしたが、構わず言を紡いだ。愛おしくて堪らない人に、こんな顔をして欲しくはなかった。
「巌勝様をお慕いしています。だから、その・・・、嫌ではありません・・・」
頬が熱くなるのを感じた。行為そのものを指す言葉を口にするのは憚られてしまうが、それでも思いの丈を伝えたくてキリカは続けた。
「私の方こそ、ご迷惑をかけてばかりで申し訳ありません・・・、あっ・・・」
再び、目眩がした。身体の中が、ゆらゆらと揺れているようで気持ち悪い。力なく倒れ込みそうになったが黒死牟に抱き止められた。
「申し訳ありません・・・」
「無理をするなと言ったばかりであろう・・・」
そのまま、褥に横たわらせようとした。だが、キリカは黒死牟の腕を掴むと、首を横に振った。
「あの・・・」
「如何した・・・?」
「もう少しこのままでいてもいいですか・・・?」
「それは構わぬが・・・、休まなくて良いのか・・・?」
「はい・・・。巌勝様がお側にいてくださると、とても落ち着くんです。ですから、このままで・・・」