第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
気遣わしげに問われ、キリカは慌てて目頭を指で擦る。
「そんなに擦ったら・・・、目蓋が腫れてしまうであろう・・・」
キリカの指をそっと退けると、盛り上がりかけた涙を丁寧に払う。
「まったく・・・、お前はすぐ泣く・・・」
「・・・っ、泣いてなどおりません。巌勝様が・・・」
「私が・・・、如何したと言うのだ・・・」
涙を拭ってやりながら尋ねた。宥めるように優しく。
「・・・不安なのです。さっきだって巌勝様を見ている女性がたくさんいました・・・。隣には私がいるのに・・・」
小さくしゃくりあげながら、キリカは言葉を続けた。
「・・・もっと綺麗な女性が現れたら、貴方はそちらに行かれてしまうのではないかと。もし、そうなったら私は・・・」
望みはただひとつ。ずっと、この方の側にいたい。それだけなのだ。
ぽろぽろと、大粒の涙を溢した。堪えきれない思いが涙に変わったようだ。
「何を馬鹿な事を・・・。私が・・・、そのような事をする訳が無かろう・・・」
「ですが・・・」
「キリカ・・・、いい加減にせぬと・・・」
言って、キリカの身体をかき抱いた。折れんばかりに力強く抱き締める。
「お前を愛している・・・、ただ一人、お前だけを・・・」
「巌勝様・・・」
「言葉だけでは足りぬと言うのなら・・・」
キリカを抱き上げた。褥へと連れていく。
「この雨では・・・、外に出れぬ・・・。覚悟する事だな・・・」
真っ直ぐ見つめたまま発せられた声は何処までも艶やかで、そして心地好い。
(私も貴方だけです。お慕いしております・・・)
覆い被さってきた黒死牟の背に腕を回した。もて余すほどの愛おしさを込め、更に引き寄せる。
(巌勝様・・・)
永遠に、貴方の側に。願いながらキリカは目蓋を閉ざした。