第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
「生きている証拠だ・・・、気にするな・・・」
幼な子をあやすように、黒死牟はキリカの背をぽんぽんと叩いた。
「何か食べ物はないか・・・、聞いてきてやろう・・・」
「いいんですか・・・?」
ちらり、と、キリカが顔を上げた。
「そのぐらい・・・、お安い御用だ・・・」
「ありがとうございます・・・」
身体を起こすと黒死牟は身支度を整え始めた。手早く浴衣を纏い、人であった時の顔容に戻ると、褥で半身を起こしているキリカに声を掛けた。
「では・・・、此処で待っておれ・・・」
「はい・・・」と恥ずかしそうに微笑むキリカと視線が合う。黒死牟は目を細めると、足早に部屋を出ていった。
それから四半刻もしないうちに、黒死牟は木の盆を片手に戻ってきた。
盆の上には湯気を漂わせたうどんと握り飯が並んでいる。鰹だしの良い香りがふわりと漂い、キリカの鼻腔をくすぐった。
褥の隣に設えてある卓に盆を置く。
「ゆっくり・・・、食べるのだぞ・・・」
「巌勝様、ありがとうございます」
キリカは双眸を輝かせながら礼を述べると、「いただきます」と両手を合わせた。
ふうふうと冷ましながら、熱いうどんを啜る。よほど空いていたのか、うどんも握り飯もあっさりと腹の中に消えていく。
「ご馳走さまでした。とても美味しかったです」
空になった器を置くと黒死牟に向かって無邪気に微笑んだ。
「早いな・・・、そんなに腹が空いていたのか」
「はい・・・。昼から何も食べていなかったので」
気恥ずかしげに微笑むと、キリカは冷たい茶を一口含んだ。