第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
まさか逆上せたのであるまいかと俄かに不安になった。浴室の扉を控えめに叩く。
「キリカ・・・、如何した・・・?」
「・・・・」
微かな衣擦れの音がした。戸を隔てた向こう側にキリカはいる。だが、答えはない。黒死牟は尚も問い掛けた。
「逆上せたのであるまいな・・・」
「・・・ち、違います」
戸の向こう側から囁きのような声が返ってきたのは、ややあってからだった。ほっとするのも束の間の事、か細く、歯切れが悪い声に黒死牟は怪訝な表情を浮かべた。
「では・・・、如何したと言うのだ・・・。開けるぞ・・・」
業を煮やした黒死牟が浴室の戸に手を掛ける。と、同時に戸が音もなく開いた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません・・・、あの・・・」
ほんの少し開かれた戸の隙間からキリカが顔を半分だけ覗かせる。
「その・・・、あまり、見ないでいただけますか?」
消え入りそうな声音で言を継ぐと、続いて、右半身を覗かせた。
「その・・・、格好は・・・」
「着替えが置いてあったので着てみたんですけど・・・」
言うなり、キリカが目を伏せた。恥ずかしくて堪らないのであろうか、肩が小刻みに震えている。
キリカが纏っているのは透けるような薄物だ。右手で胸元を隠してはいるが、裸体を晒しているも同然の姿であった。
「・・・・」
「・・・・」
二人の間に沈黙の帳が降りる。居たたまれない気分になったキリカが背を向けた。
「申し訳ありません。浴衣に着替えてきますっ」
「・・・その必要はない・・・」
黒死牟はキリカの腕を掴むと浴室から引き摺り出した。小さな悲鳴を上げる身体を担ぎ上げると寝台に向かう。
「・・・っ!」
寝台にキリカを放り出した。仰向けにさせると、自らの肉体の下に組み敷いた。
「隠すな・・・、よく見せろ・・・」
咄嗟に胸元を隠そうとするキリカの両腕を一纏めに掴んだ。褥に縫い付けるようにして自由を奪う。