第13章 ※宵の宮・雨月夜の契り※
「・・・!」
「しばし・・・、雨宿りをする事にしよう・・・。行くぞ・・・」
不安げな問い掛けによどみなく答えると、黒死牟はキリカを横抱きにしたまま扉を開けた。
(逢引宿って・・・、まさか・・・)
言葉を失ったキリカが頬を紅く染め上げる。
建物の中は薄暗かった。連なる扉から微かに漏れ聞こえるのは衣擦れや囁き、忍び笑い。ここは男女が愛を交わす場所なのだ。
人の睦み事を盗み聞きしているようだ。形容しがたい浅ましさを覚え、逃れるように顔を黒死牟の肩口に押し付けた。
だが。しっとりと雨に湿った浴衣の下の強靭な肉体の感触が更なる羞恥心を沸き起こす。逢引宿に来たからには、この後どうなるのか。
(やだ・・・、私ったら何を・・・)
起こりうる行為を想像し、頬だけでなく耳まで染め上げたキリカが雑念を振り払うように首を振った。
「この部屋だ・・・」
奥まった部屋の前で黒死牟が立ち止まった。開けられた扉の先には緋色や桃色、金色などの極彩色に埋め尽くされた淫靡で俗悪な空間が広がっていた。
キリカの身体を下ろすと、黒死牟は扉に鍵を掛けた。解放されたキリカは逃げるように部屋の隅まで駆けていく。
「・・・・」
駆け寄った先には艶かしい空気を漂わせている寝台が置かれていた。直視できない。
(どうしたらいいの・・・)
無論、来たのは初めてだ。勝手が分からず、立ち尽くしていると、不意に背後から抱きすくめられた。
「きゃあっ!」
「もう・・・、我慢できぬ・・・」
「巌勝様・・・、・・・・っ」
黒死牟のいつになく切羽詰まったような口調に瞠目する。振り返れば、やにわに口を塞がれた。
「んっ・・・、ふぅっ・・・・」
噛みつくような激しい口付けに、キリカの呼吸が乱れていく。逃れようとしたが、後頭部に回された手がそれを許さない。
「・・・っ、・・・はぁっ」