第9章 【フロイド】over over!!
先にベンチで本を読んでいた監督生が、フロイドを見つけてその本を閉じる。小さく手を振り笑顔を見せてくれる監督生は素直に可愛いとフロイドは思った。
隣に座ると、自然と頭を彼女の頭に乗せるように傾げて徐に空を見上げる。
空が青い……。
珍しく何も話してこないフロイドを不思議に思いながらサユも彼の見ている空を見上げた。
「小エビちゃんさぁ」
「何ですか?」
「なんでそんなにちっさいの?」
「えっ?」
唐突に始まった会話に疑問符を浮かべる。
フロイドは、頭を上げると監督生の腰を引き寄せてキュッと抱きしめた。自分から比べたらとても小さくてすぐにでも締め潰してしまえそうな程の身体……だけれども、よくよく考えてみれば自分と違って柔らかな感触が手肌に当たる。
陸の女の子の身体って柔らけぇ……。
本日のフロイドは、陸上での性知識に対し、とても十分かつ豊富な量を心得ていた。
朝からお昼に掛けて、今までにないほどにソレについての話を聞き齧ってきたからだ。
そして目の前には気になる女の子……気になると言っては語弊がある。好きで好きでたまらない愛する女の子が我が腕の中にいるのだ。
ドクンと心臓が跳ねた気がした。
「小エビちゃんっ!!」
腕の中にいる監督生がビクッと身体を跳ねさせてフロイドの顔を見上げる。
腰を抱きしめているのと反対の手が、監督生の後頭部に回ったかと思うと、そのままフロイドの顔が近づき、互いの唇が重なり合った。
キスをしたのは初めてではないが、いつも以上にゆっくりと重なるそれにサユは心拍数を跳ね上げる。
フロイドは角度を変えては、何度も何度も啄むように唇を合わせ、しばらくして、今度は彼女の唇を捕食するかのように貪り始めた。
突然の出来事に、されるがままのサユは身体を硬直させてはいるが嫌がっている様子はない。
見計らったかのよう様なタイミングでフロイドは唇を離すと、そのまま監督生を横抱きにし走り出した。
「えっ?えっ?フロイド先輩?」
そのスピードに耐えるため、彼にしがみ付いたまま、何事かと彼の名を呼ぶサユ。
林の中をいとも簡単に通り抜け、階段を踏み飛ばし、気づけば鏡舎の中へ連れ込まれていた。