第1章 【リドル】It's tea time①
「苺タルト食べましたか?」
「……???」
サユの香りと柔らかさを堪能していたというのに、突然のそんな問いかけにリドルは動きを止めた。
「何故だ?」
「……だって、イチゴの味がします」
そう言いながらサユは再び顔を彼の方へ向けて、その唇に指を当てる。
「苺タルトは食べていない」
リドルは、もう一度サユの唇に自分のそれを重ね合わせて、クスッと笑った。
嘘はついていないのだ。
イチゴのタルトは食べていない。
食べたのはイチゴのプティングである。
「午後のお茶を楽しんだら、きちんと歯磨きをしよう」
悪戯っ子のようなリドルに、ちょっとだけ頬を膨らませたサユ。
楽しそうにもう一度彼女の唇を啄んだリドルが、サユの後頭部に手を滑らせたと同時に、軽いリズムでドアが2回ノックされる。
少し残念そうな顔をしたリドルが、ドアの向こうの相手に「入れ」と声を掛けた。
サユは急いでリドルの椅子から降りようと試みるが、容易に彼に阻止される。こんな姿を他の寮生に見られたらリドルの威厳が台無しになるのではないかと心配しているのに、当の本人はどこ吹く風だ。
ガチャッと音がして、サユの身体がビクッと反応する。
クスクス笑うリドルの声が背後から聞こえながら、サユは開かれたドアの方へ顔を向けた。
そこに立っていたのは、素敵なティーセットとアフターヌーンティースタンドを運んできたトレイ・クローバー。
目が合った瞬間、サユは頬を赤くして視線を外す。
そんな彼女を見て、トレイはニコリとほほ笑むと、そのままお茶とおやつをテーブルに並べ始めた。