第6章 もってけ!武勇伝(ヘタリア/フランス)
泥沼にはまっていく人間模様は、実におもしろい。
日本のヒルドラでは、しばしば泥のぶつけ合いをしているらしい。
そして、より多くの泥を浴びせられたものが勝利するという。
その様は、なんとも胸糞悪いものだよと友人は言う。
「負けると分かっても…泥をぶつけずにはいられないとは悲しい性だね」
俺は、その友人の入れた紅茶を一口すすった。
「嫌みかよ、バカ」
「嫌みだよ、馬鹿」
すかさず突っ込むと、すがるような眼をされた。
…ああ、まったく持って大人げないことをした。
苦い泥を盛られた気分になって、軽く鼻で笑ってやった。
「だって…アイツ馬鹿なんだ。
不幸になってんのわかってるんだぞ?なのに、なんでついて行くんだよ…。さっさと別れて幸せになるほうに行くだろ。DVが怖いなら俺が全力で守ってやるのに…」
ああ、また始まった。
酒も入ってないのに、昼間からこいつは…と、なんだか無性におもしろくなってきてしまう。
普段、俺とアーサーは決してつるまない。むしろ互いにけん制し合っている。
ただ、恋愛ごとだけは例外で、何かにつけて相談してくる(まあ、あのアルや控えめな菊には相談できないんだろうね)。
…というか言いたげな目をしてたので話を聞かずにいられない。己の性にも嫌気がさす。
小さなため息をついて、アーサーを見ると、目には涙がうっすらと浮かんでいる。
「わかった、わかった。ジャ パ ド プロブレーメ !
ああ、今度ぜひ彼女と三人で話でもしようじゃないか」
なんとも思いつきで、おもしろくないことを提案してしまった。
そんなにいい女なら、俺だって口説きたいさ。男がいようが奪えればいい。その情けない男を、憐みの目で見る。その恍惚感と言ったら…。
だけど、今回はできない。こんな俺にも最低限の良心はあるのでね。
…そんなわけで、俺にはなんのメリットもないわけだ。
人間の愛憎入り混じった泥沼劇は大好きだ。
だけど、それはあくまで己が巻き込まれないことが前提での話。
実を言うと、こういうの苦手分野なんだ。
こういう重いのは…自分のだけで勘弁願いたい。
…ほんと、バカ野郎だな…