第5章 特別ならざる逢瀬(阿伏兎夢)
「おやお嬢さん。おめかししてどこまで行くんですかな」
阿伏兎がいつもの格好で待ち合わせの場所に立っている。
二時間も待たされた上、いつもと変わらない態度と格好の彼に、私は少し腹が立った。
持っていた弁当を思いっきりぶん投げ不機嫌そうな表情でそっぽを向いて見せた。
「おいおい冗談だって。待たせて悪かったよ!」
不意打ちで、阿伏兎は顔面にぶつけられた弁当を危うく落としそうになったが、そこは器用にふとももでキャッチしていた。
「…そう不機嫌そうな顔をされると大変口説きにくいんだが、なんとか機嫌直してくれないかねぇ」
そう言って彼は懐から綺麗な細工のペンダントを出した。
包装されているわけでもなく、袋に入っているわけでもない。
「こういうの、どうも苦手でね。いい年してマイッタね。…受け取ってくれない?」
珍しく恥ずかしそうに頭をかきながらペンダントを軽く振って見せた。