第19章 隣のA.PH(ヘタリア・ティノ)
僕はできれば君のヒーローになりたい。
でも、それができないなら、せめて。
君の手を握っていたい…。
「五十鈴さーーん、見てください。賞金GETしましたよ!」
そう言って、ティノくんはご祝儀袋を高々と持ち上げた。
「やったね!まさか本当に賞をとっちゃうなんて」
「えへへ、優勝は無理でしたけど…。
でもやっぱりうれしいな、人に認められるのは」
ティノくんは相棒のギターにキスをする。
彼はまだ大学生。
本当は音楽一本で行きたいみたいだけど、やっぱりそこは躊躇してしまうらしい。
三ヶ国語を操る優秀な情報処理の学生なので、周りからの期待も大きいのだろう。
「今日は、一緒にご飯食べましょうよ!絶対に今日は僕がおごりますからね!お財布出さないでくださいよ!」
彼はいつも明るくて優しい。
ただ年上の私に合わせようと背伸びしているかも。
「…そんな、いいのに…」
私もそれに、少し気を使ってしまう。
「人生って、どうなんですかね」
ただ、お酒が入ると少々愚痴っぽくなる。
今日も酒びん一本握ったまま目つきが怪しくなっている(未成年ではない)。
「そんなに難しく、考えなくてもいいんじゃないかな…」
「だめですよ、そんなんじゃ、だめでしゅよ、五十鈴さん!」
そろそろろれつが回らなくなってきている。
ちなみに入ったのは個別の席がある一般的な居酒屋だ。
こう言うところが好きらしい。…私もそうだが。
「僕は、人として、どういう生き方をするかをですね、」
真剣に話しているものの、もう主語述語もごちゃごちゃになってきた。
潮時か。
「ねえ、そろそろ帰ろう」
ティノくんはまだちょっと話足りない感じだったけれど、私がお財布を出し始めると一気に酔いがさめたらしい。
ふらふらしながらもお会計をしようと立ち上がった。