第13章 窓辺で愛は語れない(フランシス夢)
道なりに歩いていくと、そこには一人の中国人。
「カモあるね!ミレーユに頼まれて来たあるよ!」
「ミレーユ?」
あの女性のことだろうか。
一度でも、名で呼んであげればよかった。
「何あるか?ちがうあるか!?」
中国人は少し警戒したように叫んだ。
「いや、ミレーユにこの地下通路に入れてもらったんだ」
「それしかありえないある。
じゃ、この子船に乗るよろし。代金は奮発してもらうあるよ」
「ちょっと待てよ。俺は今金なんて持ってないぞ」
「文無しあるか!?」
「いえ、私が払います。
物ですが、よろしいですか」
そう言って姫が前に出た。
そして銀でできた上等な鏡を渡した。
「おい、いいのか」
「はい。私の最後の私物です。姫としての財産は、すべてここに置いて行けという神のお告げなのかもしれません」
そう言って姫は笑った。
「あいや―。その心意気、気に入ったある。ささ、乗るよろし」
そう言って姫を先に舟に乗せた。
つづけて俺も舟に乗る。
「まっすぐこのまま行けば海に出るある。
そしたらわき目も振らず東に進むね。そうすれば豊かな島に出られるある。
がんばるね」
そう言って、中国人は姫に鏡を返した。
「これは、手放したらだめある。今の心意気をなくさず強く生きていくね」
そう言って彼は舟を押し出した。
舟は夜の闇の中をゆっくりと海を進む。
でも不思議と恐怖も不安もない。
姫がいて、そして多くの仲間がいてくれる。
「今日は満月だよ」
姫はそう言って空を指差した。
「そうだね」
俺は頷いて姫を後ろから抱き締めた。
これから、すべてが1から始まろうとしている。
あとがき
なんとか切り上げられた。もうちょっと長くなる予定だった。