第13章 窓辺で愛は語れない(フランシス夢)
どうしてこう、届かない恋にばかり俺は夢中になってしまうのだろう。
俺はタンポポを片手でくるくる回しながらつぶやいた。
相手は異国の王族の娘。
俺もそれなり身分のある身だが、さすがに王族に手を出したらギロチン行きだ。
「は~…可愛い子はいっぱいいるってのに」
そう言いながら道行く貴婦人たちにウィンクしていく。
その中の一人が、こちらに歩いてきた。
「はぁい、フランシス。今日はなんだかご機嫌じゃない?」
この前カジノで一緒だったマダムだ。
あの挑発してくるような目がたまらないんだよね。
「ボンジュール、わかるかい。君と出会えたあの熱い夜のことが蘇って来たのさ」
そう言って常備しているバラを差しだそうとしたが生憎今日は出払っていた。
「ああ、君に似合いそうな花はなかったね。その時は君に…」
彼女に言ったあの言葉を目の前の彼女には言えない。
もしも言ってしまったら、もう二度と彼女に会えなくなってしまうかもしれない。
一種のジンクスのようなものだろうか、俺はそう思って婦人の指先にキスをした。
「否、どんな美しい花も君の手に触れたらくすんでしまうね。罪な人だ」
「まあ、御上手なこと。
…そういえば、あの東洋の娘をご存じ?」
不意にこの婦人は俺に言った。
彼女のことだろうか。
すぐに彼女が出てしまうあたり、俺は末期なのかもしれない。
「東洋の娘?
さあ、聞かないね。俺は今目の前の君に夢中なんだ。ほかの女の話題を振るなんて、あまりにも釣れないんじゃないか?」
「くす。そうね、ごめんなさい。
でも今街で噂なのよ。ほら、どこかの国の王族って娘。
彼女、この国の貴族に夢中なんですって。異国に男漁りに来たのかしら。彼女、大人しそうに見えてやるわよね」
どうやら俺と会っているのが見られたらしい。
誰かは特定されてはいないらしいが、今後彼女に会うのはますます難しくなってしまったようだ。