第1章 −嵐の夜に−
「子守唄でも歌ってくれるんですかねぇ?」
馬鹿にした物言いに少し腹が立つものの冷静さを欠いてはいけないと歯を食いしばる。
『お望みとあらば』
〔お姉、気を付けて。この人・・・〕
「なら、お願いするよ」
一瞬で間合いを詰められアタシの喉元には一本のメスが突きつけられていた。
『・・・・。このまま歌えって?』
「場所を変えてもいいですよ?一緒に来てくれるならね」
『ミオ。狂鳴・・・』
言いかけて直ぐに首筋に鋭い痛みを感じた。
〔お姉?!〕
「俺を甘く見ない方がいい。武器が居なくてもお前を狩る事は出来る」
『アタシ達をどうするつもりだ・・・』
首筋の皮膚をジワジワと斬りつけながら男は不敵に笑う。
嫌でも自分の弱さが分かるし、こんな事なら休憩なんてするんじゃなかった。
「簡単な事ですよ、俺と一緒に来てもらう。断るようなら・・・」
『殺す、ってところか・・・』
「そう取ってもらっても構わない」
今やれば、確実にアタシ達は負ける。
人間のコイツに。
母さんの為にも、ミオの為にも此処で死ぬ訳にはいかない。
『・・・分かった。従おう。』
〔お姉?!いいの?〕
『今やり合っても負ける未来しか見えない・・・』
「賢い子は好きですよ」
ヘラヘラと笑う男はアタシからメスを離すと顎先で行先を示した。
・・・先に行けって事か。
仕方なく先を進もうと男に背を向けたその瞬間だった。
〔お姉!!!危ない!〕
『え?』
スパンッ!!!!!
〔お姉!!〕
「すみませんね、少しの間寝てて下さい」
魂の波長を打ちこむ、昔父さんのパートナーだった人が出来たって聞いた事があったような。
これ・・・結構痛いもんなんだね。
ごめん、ミオ・・・。
薄れゆく意識の中で見たのは憎たらしい顔の男と
愛おしく守らなければならない妹の悲痛な声。
「大丈夫ですよ。悪いようにはしないですから」