第5章 流星雨
上を見てもまだ木に隠れて星は見えない。
この暗闇の中頼れるのはカカシのみという、仄暗い森に恐怖がゆっくりと蝕むように湧く。
は無意識に腕に力が入りカカシに抱きつくようになっていた。
「暗いから怖いよね。でもま、俺がいるから大丈夫だよ。」
『ありがとうございます。…よく分かりましたね。怖いって。』
「少し力入ってたしね。忍じゃない普通の女の子なら怖いでしょ。もうすぐ着くから安心して。」
カカシの優しい言葉と声に、の内に湧いてきていた恐怖や不安の強張りがふんわりと緩んだ。
一方、カカシもこんな余裕なように振舞ってはいたが内心先程よりも密着度が上がったせいでまた意識を遠くにしなければいけなかった。
理性に大変よろしくなく、自分以外にはしてくれるなよと心の中で祈るように呟く。
も少し安心したのか手の力も先程より緩み背中から少し離れたことでホッとしたが同時に勿体なかったかなと考えた。
そのまま5分程走っただろうか。開けた場所に出てカカシは木から降りた。
をそっと地面に降ろす。
上を見上げると、見たことの無い満天の星空が広がっていた。
真っ黒なキャンバスに蒼と紫を落とし、あまねく星に星。天の端から端まで流れる天の河。
多くの詩人や文豪が愛した星の海に月の舟。
何もかもが幻想的だった。数々の物語にある幻想も事象も理も、全てが目の前に現れてくれるのでは無いだろうかと錯覚を起こすほどに。
森の吹き抜けから見える景色の今この瞬間がまるで別世界のように広がる。
自分の小ささがわかるほどの大きな宇宙に包まれるような夜だった。
『見てください!カカシさん!星の奥にまた星がありますよ!なんて綺麗…天の河って初めて見ました!本当に星の流れる夜の川なんですね!』
「俺も、こんな風にゆっくり見上げたこと無かったなぁ…。」
ずっと見たいと思っていた絶景にはまるで少女のようにはしゃいだ。
カカシにはその姿が星空よりもずっと眩しくて目を細める。
連れてきて良かったと心から思えた。
寝転ぶと、まるで自分が天の河から落ちてきたように。あるいは星の海に浮かんでいるような感覚だ。
もカカシを見て同じように寝転んだ。