第4章 真夜中の雨2
手に取り指にひっかけて数ページめくると、確かに眠りを誘ってくれそうな物語だ。
「これ買ってもいいかな?」
『いえ、これはもう読まない私の本なので差し上げます。どうぞ。』
「いいの?」
『いつも祖父がお世話になってますから。新品なら良かったんですけど、その本もう絶版になってしまってて。』
「貴重な物を…また何かお礼させてよ。」
『そんなそんな!その本がカカシさんの眠りのお供になればそれだけで十分ですから。』
カカシの胸に暖かい感情が流れ込む。
お世辞でも媚びへつらう言葉でもなく、彼女の気持ちはただこの店の馴染みの客への純粋な優しさだ。
「ちゃん、本当にありがとう。また来るよ。お礼したいから、希望があれば聞かせてね。」
『気を使わないでくださいね!また本の感想聞かせてください。お待ちしてますから。』
カカシはタオルを返し、本はビニールに包んでポケットに入れた。
から傘を借り、雨降る夜に家路を辿る。
家に着くと着ていた服を洗濯場へ放り投げ、部屋着に着替えた。
ベットに座り、先程借りた本に目を通す。
ペラペラめくるとあるページで指が止まった。
タイトルは『花吹雪』
いずれは木になり花を咲かせ散るという病を持つ男に、村の皆が治療を勧めるが頑として聞かず、遂には花を咲かせ今まで誰も見た事のないほど立派でありながら、とても悲しい花吹雪を村にふらせたという話だ。
男は亡き妹が見たいと切に願った花になりたかったのだ。
今のカカシにはこの主人公の男が、どうもサスケと重なって見えた。
復讐という病。木の葉の仲間が復讐は何も残らないといっても、今のサスケにはそれが全て。
初めから答えなどない。あるものが見たら美談になるだろう。あるものが見たら愚かしく思うだろう。
周りがなんと訴えても、本人の中にしか答えはないのだ。正論など、理屈など。それで抑えられる納得できるものではもう無くなっているんだろう。
カカシは本をサイドテーブルに置き、布団に入って眠りにつく。
体から仄かに、船瀬屋の本の匂いと珈琲の香りがするような気がした。