第4章 真夜中の雨2
カカシの鼻腔に香ばしい匂いが伝わる。
匂いの元を辿ると、が何やら奇妙な機械にお湯を注いでいた。
じっと凝視すると、その視線に気づいたのかふわりと笑う。
カカシもの可愛らしく邪気のないそれに合わせるようにぎこちない笑みを返した。
『お待たせしました!』
カップを持ってきた彼女の中身を見ると、黒く泥を溶かしたような水に見える。
「…これは、飲めるやつ?」
『はい。珈琲って言うんだそうです。結構苦味がありますけど、慣れたら美味しいんですよ。』
じっと確かめて見てみるが、どうも自分には飲めそうにない。
『飲んでみます?』
「うーん、今日は遠慮しておこうかな。」
『ふふっ分かりました。興味が出たら1度飲んでみてくださいね。』
「あははは…」
笑ってごまかすが、今の所飲む予定は無いので流しておく。は涼し気な顔で、熱く黒い飲み物を啜った。
見た目はともかく、なかなかクセになりそうな良い匂いだ。
窓の外を見ると、先程店に入った時より強い雨が地面を叩いている。
夜の闇に溶けた街を背景に弾かれた雨粒が煙に変わる。
ちらりとの方に視線を移すと相変わらず幸せそうな顔をして窓の外を眺めていた。
「雨、好きなの?」
『えっ?…ああ、そうなんです。雨が降ってると嬉しくなっちゃって。』
「珍しいね。大体晴れが好きな人の方が多い気がするけど。」
『私もそう思います。でも雨って、不思議な魅力がありません?』
の言う雨の不思議な魅力とは、と考えてみるがカカシの頭の中にはスっと浮かび上がっては来ない。
任務の時に、敵の臭いが消えて面倒だとか視界が悪いとか、カカシにとっての雨はそんな存在だ。
ああ、でも良いことはたった一つ思い出した。
親友の慰霊碑の前で自分の代わりに泣いてくれることだ。
そう感じると、この子にとっての雨とはなんなのか興味が湧く。
「たとえばどんな?」
『私は雨の音がして普段聞こえる音が聞こえなくて閉ざされてる感じがするんです。
今でいうと、この大好きな店で大好きな本に囲まれてカカシさんといる空間で世界が完結してるみたいな。切り取られた、近くにある大切なものを感じられるような…』