A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
「フ、フロイド先輩…!」
目の前にいたエースも、目を見開き その視線は私の背後辺りへと向けられている。
ふわりと 海を連想させる様な、そんな爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
香水みたいにキツくない、近寄った時にだけふんわりと香る、この香り。
「あーカニちゃんもいるじゃん。…あれぇ?なんか小エビちゃん元気なくねぇ?」
「そう言われてみれば、いつもより今日は口数が少なかった様な…ユズ、腹でもいてーの?」
本当に、ほんっっとうに、毎度毎度心臓に悪い。
この登場の仕方なんとかならないのか。
いつもならすぐに反応できるけど、今日はずーっとこの人…フロイド先輩の事を考えていたからか、中々言葉が出てこなかった。
どきどきと早く脈打つ心臓が口から出てきてしまうのではないかと心配になるほどで。
どうか 鋭いフロイド先輩に気が付かれませんように…
「だ、大丈夫大丈夫!…フロイド先輩、おはようございます」
少し反応が遅れるだけで気付くなんて、なんとも恐ろしい…
ちらりと視線だけを自分の右側へとやれば、ちょこんと私の肩に顎を乗せていらっしゃるフロイド先輩の色違いの目と私の目が交わる。
「今日はジェイド先輩とアズール先輩と一緒じゃないんですね?」
エースのその言葉にちらちらと辺りを見渡すが、確かにいつも一緒にいるジェイド先輩とアズール先輩はどこにも見当たらない。
フロイド先輩はひとりの様子だった。
「ジェイドとアズールはモストロラウンジじゃねぇーの?つまんねーから抜け出してきた。それにぃ、俺今タコ焼き食べたいんだよねぇ」
「本当すきですね…」
そんな事はどうだっていいとでも言うように、くるくると人差し指に私の髪の毛を巻きつけて遊んでいる。
きっとまたこの人の気分屋が発動されたのだろう。
「カニちゃん、タコ焼き買ってきてくんねぇ?」
「えぇ〜…ま、俺もどうせ自分の買いに行くしいいですよ。で?ユズは何にすんの?買ってきてやるよ」
"その人に捕まってて動けそうにないし"と呆れたように笑いながら付け足されてしまった。