A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
"あの人"は、きっと…いや、絶対に喜ばないという自信がある。
なんなら、不機嫌な時ならその辺にぽいと捨てられるんじゃないかとすら思える。
(うーん…あり得るな…)
まぁ、でも。
どっちみちあの人だけに皆とは違う何か特別なものを渡す、なんて事は天と地がひっくり返ったって絶対にそれだけはないし。
皆と同じ物を 同じ様に渡せば、そんなに悩まなくたって案外なんとかなるのかも。
トレイ先輩にもお世話になってるから渡したいし、今回は自分一人で頑張らないと。
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「あーーー腹減った。早く食堂行こうぜ〜」
「オムライス♪ポテトフライ♪チョコクロワッサン♪」
「グリム、またそんなに食う気か?」
何を作ろうかとか、放課後しばらくの間ひとりで練習した方がいいかなとか、そんな事ばかりを悶々と考えていれば、気が付いた時には午前の授業は終わり 昼休みになっていた。
これじゃあ、この三人の事を思春期男子と馬鹿に出来たものじゃない。
私だって同じようなものだ。
(はぁ。一旦落ち着こう…)
授業となると元気をなくすのに、昼休みとなればたちまち元気を取り戻し 大食堂へと足並み軽やかに進んでいく三人の後を 少しだけ遅れてとぼとぼと着いていく。
錆び付いた鉄の掛金がギィと鳴ると同時に大食堂の扉が開き、ぞろぞろと中へ足を踏み入れる。
「相変わらずスゲー人なんだゾ。急がないと目当ての物がなくなっちまうんだゾ!オレ様のチョコクロワッサン〜!」
「あ、待てグリム!順番を守れといつも言ってるのに!」
「まーたデュースの"優等生"が始まった。ユズは?何にすんの?」
人混みをかき分けていくグリムを止めようと追いかけていくデュース。
やれやれ、と呆れながらそんなふたりの背中をエースと見守る。
「うーん。どうし「おはよー、小エビちゃん」
表記されてあるメニューを見ながら今日の昼食を何にしようか決めようとしていたその時だった。
がばりと何者かの腕が首付近へと巻きつけられ、耳元から 纏わり付くようなねっとりとした声色が聞こえたのは。
突然の事にびくりと肩は震え、思わず"ひっ"と なんとも情けない声が飛び出る。