A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
「けほっ、けほ…」
一気に肺へ大量の空気が流れ込み、思わずむせ返ってしまう。
そんな私を見て、フロイド先輩はどこかぎこちなく でも優しく、私の背中をさすってくれた。
素晴らしい程の飴と鞭に、どんな反応をすればいいものかわからなくなってしまう。
…だけど、私の嘘でここまで怒らせてしまったのなら。
これだけは伝えておきたい。
「補習って嘘付いたの、放課後モストロラウンジに行くのが嫌だったからとかじゃないんです。本当は内緒にしておきたかったんですけどもうすぐ…その…、バレンタインデーですよね。フロイド先輩には美味しいって思ってもらいたかったので、予行練習をしておきたくて…」
呼吸を整えた後、何を考えているのかわからない無表情のフロイド先輩にちらりと視線をやり、もじもじと行き場のない両手を合わせたりしながら、そう話す。
こんなのらしくないとわかっているが、どうにもこうにも照れ臭い。
そんな私の言動に、きょとんと目を丸くさせている。
せめて何か言ってくれないと恥ずかしいし気まずいんだけどな…
「でも、どんな理由があっても嘘は駄目ですよね。フロイド先輩ごめんなさ…っ」
ぺこりと頭を下げようとしたその時、突然目の前は真っ暗になり、あの爽やかな香りに包まれて 謝罪の言葉を最後まで紡ぐ事は出来なかった。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、気がつけば私は再びフロイド先輩の胸の中にいた。
でも、先程とは違って そっと壊れ物に触れるかの様に優しく添えられるようにして背中へと回されたその腕。
こんな触れ方出来たんだって思わず感心してしまう。
「小エビちゃん、ほんとバカじゃん」
「バ、バカってなんですかっ…」
「あんな事されてんのに怒んないで謝るのぜってー小エビちゃんぐらいでしょ」
"あんな事"そのワードにぼっと顔に熱が集中するのがわかる。
そうだ、私フロイド先輩とキスしたんだ。
でも、怒ってキスって…
やっぱりフロイド先輩は何考えてるか理解不能すぎる。
「あはっ。本物のエビみてぇ」
「か、からかわないで下さい」