A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
「はぁ、はぁ…」
「もうオレ様…走れねぇんだゾ…」
オンボロ寮からメインストリートを抜け、校門まで全速力で駆け抜けてきた私とグリムは息も絶え絶えで。
もうここまで来れば大丈夫だろうと足を止め、膝へ手を付きながら呼吸を整える。
バルガス先生の体力育成がなければ、ここまで走り抜く事はきっと難しかっただろうな。
「おーユズとグリム!やぁーっと来たか!」
「またグリムの寝坊か?」
と、どこからかそんな聞き覚えのある声が聞こえてくる。
その声の主は 見ずともわかる。
同じく一年生のハーツラビュル寮所属、エース・トラッポラと、デュース・スペードだ。
「ふな"ぁ"?!今日はオレ様の寝坊じゃなくてユズの寝坊のせいなんだゾ!」
「エース、デュース、おはよう」
ぎゃあぎゃあとデュースの言葉へ抗議するグリムを横目に、ゆっくりとその声の方へと顔を上げ、ふたりの方へひらひらと手を振る。
このメンバーが揃うと、なんだか安心してしまうような、そんなメンバーだった。
男子校にたった一人の女で、更には魔法も使えないのに、分け隔てなく仲良くしてくれている。
学園内では自然といつも行動を共にするようになっていた。
「へぇー?ユズが寝坊なんて珍しい事もあるんだな、本当かよ」
「うん。久しぶりに夢も見ずにぐっすり眠っちゃってさ」
「危なかったな、後少しで遅刻するところだったぞ」
「オレ様を無視するなぁ!」
そんな話をしているうちに、あっという間に教室へと辿り着く。
まだ授業も始まっていないからか、ざわざわと個々に生徒が雑談していて騒がしかった。
「今日の一限目ってなんだっけ?」
「そんな事より!ユズ!!」
「は、はい…」
エースがなんだか張り切った様な大きな声でこちらへずいと寄ってくる。
…なんだなんだ。
お願いだから厄介事だけは勘弁してほしい…。