A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
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「お…ろ、……きる…ゾ!」
ふわふわと定まらない意識の中。
どこか遠くの方から、聞き慣れた声が聞こえる。
なんだろう。誰かが私を呼んでいる様な…
「コラ ユズ!とっとと起きるんだゾ!」
「ん…」
少しずつはっきりしてくる意識に、未だ開く事を拒む様に重たい瞼をゆっくりと開ける。
ぼやぼやと霞んだ視界の中には、二つの猫耳の様なものが見えた。
「…ああ…グリムか」
「まぁだ寝ぼけてんのかぁ?早く支度しないと遅刻するんだゾ!」
「遅刻…」
そうだ。グリムだ。
そして此処はオンボロ寮。
今日は夢ひとつ見ずに、ぐっすり眠っていた気がする。
まだ眠い。二度寝しようかな。
グリムの言葉をぽつりと繰り返しながら ぼんやりとそんな事を考えていた。
(ん…?遅刻…遅刻…?!)
その単語ひとつで、一気に脳が覚醒するのがわかった。
何かに弾かれるかの様にがばりと勢いよく起き上がり、すぐそばに置いてある時計へと視線を向ける。
そこには、後少しで遅刻してしまう時刻が刻まれていた。
「まずい!遅刻する…!」
「オレ様がさっきそう言ったところなんだゾ。連帯責任なんだから早くするんだゾ!」
いつもはグリムが寝坊する癖に、他人事ともなれば"やれやれ"と呆れ顔を浮かべ 大袈裟に溜息を吐いているグリムを横目に 慌ててパジャマを脱ぎ その辺へ投げ散らかす。
投げたズボンがたまたまグリムの頭へと覆い被さり、じたばたとそこから逃れようとしていたような していなかったような。
見て見ぬ振りをして、ハンガーへと掛けてあった制服を手に取り 袖を通していく。
そして洗面台へと急ぎ、バシャバシャと冷たい水で顔を洗い 歯を磨いた。
目が覚めてからここまで、僅か五分と少し。
最高記録といっても過言ではないだろう。
これで遅刻せずに済む…筈。
「よし、行くよ!グリム」
「行くよ!じゃねーんだゾ!窒息するかと思ったんだゾ!」
鞄を手に取り、先に玄関へと走り出す。
何やら後ろの方でぷんすかと怒っている声が聞こえる。
が、今はそんな事気にしていられない。
遅刻をするかどうかの瀬戸際なのだ。