A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
"ココナツクッキー、チョコチップクッキー"
クッキーなら 比較的に簡単だし、一度に多く作れるし、甘さ控えめにすれば割と皆食べられるかも。
そう思いながら、さらさらとボールペンを走らせ、ノートへと文字を書き込んでいく。
「後は…」
タルトは好きな人が多い気もするけど、"なんでもない日"のパーティーで ハーツラビュルの人達はよく食べてるだろうしなぁ。
それなら、カップケーキか…パウンドケーキもいいかなぁ。
"カップケーキorパウンドケーキ"
そう書き足そうと再びボールペンを持つ手に力を込めたその時だった。
「っ…!?!」
突然背後から何者かの手が伸びてきて、そのまま勢いよく口を塞がれる。
その勢いで 手に持っていたボールペンがカタリと音をたてて床へ落ちてしまった。
あまりに突然の事で、何が起こったのか理解するのに時間がかかってしまう。
(やっぱりさっきの物音、気のせいなんかじゃなかったんだ…一体誰が…)
抵抗したいのにうまく体が動いてくれない。
強い力で固定されていて、後ろを振り返る事もできない。
口を押さえられているから、声を出す事さえも。
ぶわりと一気に身体中から冷や汗が湧き出る。
「ん…んんっ…!!」
「それ、誰にあげんのー?」
なんとかしてその手から逃れようと体を捻った時だった、よく耳にするその声が聞こえたのは。
その瞬間、体の全ての動きをぴたりと止める。
「っ…」
「小エビちゃんってさぁ。ほんっと警戒心ないよねぇ」
"あ、そっかぁ。今口塞がれてて答えらんないか"と一人で納得した後、そう続けるのは、フロイド先輩。
口調はいつもと何も変わらないのに、その底冷えする様な声色は なんだかうまく言えないけど、とにかく恐い。
「海の中じゃ 小エビちゃんみたくちっこくてよえー生き物、あっという間に食べられちゃうよ」
そう小さく呟くと、口を塞いでいた手を離し 肩を掴んでくるりと体の向きを反転させられる。
そのまま見上げれば、そこには感情なんて全く読めない無表情のフロイド先輩がいて。
「あ、あの…補習って嘘ついてごめんなさい。私、ずっとフロイド先輩の事怒らせてばっかりで…」