A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
「っ…」
デュースへと差し出していた方の手首を強い力でぐいっと引っ張られ、その反動でスプーンの上に乗っていたオムライスがぐちゃりとテーブルに落ちてしまった。
デュースはもちろん、エースもグリムも皆何か言葉を発する訳でもなく、食べていた手をとめ、驚きから目を丸くさせてこちらを見ている。
掴まれている手首を視線で辿っていくと、そこには無表情のフロイド先輩がいた。
「…フロイド、先輩?」
驚きに喉がつかえてしまい中々声が出せず、やっとの思いで出た声も、掠れてしまっていた。
気分屋さんのフロイド先輩はころころと機嫌が変わる。
なにがいけなかったんだろう。
補習があるって事が嘘だってバレたとか…?
まだ今日はさっき会ったばかりだし、そのくらいしか思い当たらない。
「小エビちゃんさぁ」
「は、はい」
「いつもそんななわけ?」
「え?」
長い沈黙の後、フロイド先輩がいつもよりも何オクターブも低い声で話し始め びくりと肩が震える。
でも、その言葉の意図が全くを持ってわからなかった。
「…いつもそんな、とは?」
「は?そんな事もわかんねーの?」
私の返答が間違っていたのだろう。
眉間に皺を深く刻み込み、こちらを睨み付けている。
でも、本当にわからないのだ。
一体何に怒っているのかが。
フロイド先輩のこの顔、苦手だ。
本当の本当に、私の事を暇潰しのオモチャだと思っているんだと 嫌でも伝わってくる。
あぁ、泣きそう。
こんなところで泣いたりしたらただの面倒くさいやつになる。
面倒くさいやつにはなりたくない。
「あ〜〜〜〜もうめんどくせぇ。帰る」
鼻がツンとする感覚に、ぐっと拳を握って それがじわじわと溢れてくるのを堪えていた。
涙は一滴たりとも出てない。
それなのに。
フロイド先輩が放った言葉は あまりにドンピシャすぎて。
ズキズキと心臓の辺りが痛む。
「え、フロイド先輩タコ焼き…」
「いらね。カニちゃんにあげる〜」
エースの言葉もふらりとかわして 立ち上がれば、一瞬にして人混みの中へと消えていってしまった。