第4章 襲撃
その時、耐えられなくなった相澤先生が叫んだ
「もういい充希!お前は良くやった!
だから自分の命を優先して逃げろ!!」
逃げる?
どこに?
8年前からずっと、逃げ道なんてない
どこへ逃げても同じ
「ヴィランへ堕ちたヒーローの娘」というのはまとわりついてくる
なら逃げる事なんて出来ない
それにしない
私はあの男とは違う
家族を捨てたあいつとは違う
「嫌です!私はせめて時間を稼ぎます!
ミッドナイトやマイクさんが来るまで!」
「馬鹿がッ!お前じゃ足でまといだ!
ヒーローでもその卵でもないお前が奴らにかなうとでも思ってるのか!」
「思ってるわけないでしょうこの馬鹿!
ええ!私だって逃げたいですよ!怖くて怖くて仕方ないですよ!
こんな所でニートが寝転がっていなければ即走って逃げてやりますよ!!
でもッ!それでもッ!」
「ッ……」
涙が溢れてきそうだった
想いが溢れて、心が悔しさで満たされて
あの日の出来事がよみがえってくるから
「守りたい相手がいるんです!馬鹿みたいに熱くなってでも守りたい人がここにはたくさんいるんです!
ヒーローじゃなくてもっ、私は!」
『おい充希、オレンジジュース買ってきたが飲むか?』
『そんなに子供じゃありませんよ…』
『まだ11のくせに何言ってやがる』
『もう11です
オレンジジュースなんてせめて6歳まででしょ』
『いいから飲め』
『………………』
コップに注がれるオレンジジュース
綺麗な色がゆらゆら揺れて、幼い頃の私はそれにしばらく見とれていた
『……ジュースは見るもんじゃねえぞ』
『はっ!』
『おぉ、やっと我を取り戻したか』
『〜っ』
渋々飲んだあの味は、すごく美味しかった
相澤先生に飲まされたという悔しさと、こんなに美味しいんだという幸福感
それらが入り交じってよく分からなかったけど、あの日以来初めて食べ物を美味しいと感じた瞬間だった
いつだって、私を救ってくれたのはあの人だった
口が悪いけど
だらしなくて髪がボサボサで服もヨレヨレだけど
傍から見ればニートだけど
それでも大事な人には変わりはなかった