第3章 1年A組の彼等
姉はそう言って、優しく私の頭を撫でた
駄々をこねる子供をあやすみたいに
『充希…………幸せになって?』
それが、姉の最後の言葉
その言葉を言い終わると、姉は永遠の眠りについた
まだ幼い7歳の充希には、最愛の姉の死と産まれたばかりの弟の死に耐えられなかった
姉の糸仲 緤(イトナカ ツナギ)と、弟の糸仲 イトナ
2人は殺された
実の父親の手によって
あいつさえいなかったら
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ピピピピピピピ!!
ガッ!
「んん」
…………………………………
「最悪だ…」
目覚め早々、音がやたらとでかい目覚まし時計を乱暴に止める
「……………………」
最悪の夢を見た
いや、あれは夢じゃなくて過去だ
もう思い出したくなかったのに、なぜ今になって見るのか
ぼー。
「はぁ……起きよ」
これ以上眠れる気がしないので、学校へ行く準備をした
靴を履いてつま先をトントンと鳴らす
「よし」
準備は出来た
制服も着たし、忘れ物もしていない
戸締りもちゃんとした
「…………」
ふと、壁にかけてある鏡に目をやる
(…………………)
相変わらずの無表情だ
皆と何ら変わらない普通の顔
しかし、私は「私の顔」を外では滅多に出さない
常に敬語だし、笑ってばかり
それはただの、姉の真似っ子に過ぎないと分かっている
頭では分かっているが、辞めることは出来なかった
もしも私が自分をさらけ出すとしたら、お世話になった孤児院の皆の前か、師匠である相澤先生だけだろう
「……………」
唇に手を当てる
そして、口角を上げるように指を動かす
ニコッ
完成だ
これが、姉の優しい笑顔
目も優しく細めれば、すぐに姉は私の元に来てくれる
姉は、いつでも私の「顔」として宿ってくれる
「行ってきます、姉さん」
鏡の中の姉にそう言う