第3章 1年A組の彼等
『やめてお父さん!やめて!!』
夢の中で小さな女の子が叫ぶ
それが誰か、私は知っている
ーーーー ああ、あれは私だ
崩れる瓦礫
燃える思い出の家
火に包まれるその家の床には、家族が倒れていた
『充希、逃げなさい
私は、もう…………』
『嫌よ!絶対に嫌!!
どうしても逃げてって言うなら、姉さんとイトナを連れて逃げる!!』
『お願い………私は、もう駄目なのよ………せめてあなただけでも』
『もう黙って!私が運ぶからそんなに喋らないで!!』
『充希………』
床にいたのは変わり果てた姉の姿
火のせいで火傷を負い、ぐったりとしている
煙を吸いすぎたのだ
そんな姉を見て、涙が止まらなかった
ポロポロポロポロと
溢れんばかりに涙は流れていく
火傷で皮膚がただれてしまって尚美しい姉は、最後まで笑っていた
悲しそうに
苦しそうに
それでも笑顔を絶やさなかった
『充希……ヒーローになって?』
そんな姉から発せられた言葉は、それだった
『ヒーローになって、泣いている子を助けられるようになって
充希には、そんな、優しいヒーローに、なって欲しい、の…
だって貴方は、すごく……優しい子だから』
『………嫌』
『…………』
『私は、父さんみたいになりたくないっ……』
震える声で言った言葉を、姉は悲しそうに聞いていた
死ぬ間際なのに
苦しんでいるのに
私は姉の願いを叶えようと思えなかった
だって、この願いは、私にとって拷問のようにひどく痛いものだったから
『充希は、お父さんが苦手だったものね……』
それでも尚、姉は笑う
最後の最後まで
命尽きるまで
穏やかな笑みを浮かべ続ける
『私は、ヒーローになる事が、ヒーローへの道じゃないと思う
雨に濡れた人に、傘を…差し出せる
そんな人は、誰かにとっての……ヒーローなのよ』
『っ…………そこに姉さんがいないなら、ヒーローなんて、なりたくないっ』
『ふふ、もう、いつまでも甘えん坊なんだから』