第8章 前兆
「…つーか、随分と名残惜しい別れだったさね?」
「そ、そうかな」
すみれが、俺を好いてくれてる事は何となくわかっている。それでも、この行き場のない感情は抑えられなかった。
「…やっぱ、すみれはあのイケメン侯爵に、気を許してんじゃねぇの?」
俺の笑顔と比例して、すみれの表情が曇って行く。それでも、すみれを傷つけるであろう言葉を止められない。
だって、間違ったことなど、
「ま、俺には関係ねえ話だけど。」
一言も、言っていないのだから。
「…っ」
すみれが息を呑むのを、感じた。
そこで初めて「言い過ぎた」と思うも、時既に遅し。
「そう、だよね…」
言葉の刃をすみれに突きつけた事を、今更後悔する。その刃が、今度は俺自身を襲う。
ーーーーーー関係ない
全く持って、言葉通りである事に気づく。
だって、俺は傍観者なのだから。
すみれを傷つけるだけ傷付けて、
こんな時だけ、傍観者面する俺って、
(ほんと、ダッセえ…)
そんな事を、思いふけっていると、
「関係ない、か…」
意図せず呟いてしまったのだろう。
聞き逃してしまいそうな、すみれのか細い小さな声が耳に届いた。
ズキッ
胸が痛む。
窓を眺めるすみれの悲しそうな横顔を、見ていられなくてーーーーーーー
「……悪かったさ」
自然と、謝罪の言葉が口から出た。