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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆


馬車の中ですみれが来るのを、今か今かと待つ。
すみれのことだから、すっげえ驚くさね。きっと。


(誕生日、どう祝ってくれんだろ…)


馬車の窓に肘を付き、思わず思い出してしまう。
すみれがお茶会で拗ねていた事を。


(…明らかに俺の誕生日祝えなくて、拗ねてたさね。笑)


誕生日で一喜一憂する程、俺も子供じゃない。
子供じゃない、が。

自分の想い人に祝ってもらえるのは、やはり嬉しい。
顔に出し過ぎないよう、そわそわ浮かれていると


「お、すみれ!……と、アイツ。」


イケメン侯爵さ。

すみれは楽しそうに、砕けた笑顔をしている。
自分以外に笑顔を(よりによってイケメン侯爵に)向けている事に、若干苛立ちを覚える。


(早く来るさ…)


馬車の前でやっと談笑し終えたすみれは、乗り込もうとした、が。

イケメン侯爵がすみれの腰を持ち、抱き上げた。
そのまますみれを馬車へ乗せる、その時、




イケメン侯爵は

すみれの頬に口付けをした




口付けするシーンが、スローモーションに見えた。



「…友人なら、出来るのはここまでかな」
「ちょっ…え?!」

すぐそこに居る二人の声が、BGMのように遠くから聞こえる。
すみれは何が起きたのか、戸惑っていた。

頬まで赤らめて。

イケメン侯爵は、馬車を操縦する御者に出発するよう伝える。すみれは俺も一緒に乗ってる事など気づかず、馬車は走り出した。




「ティキっ!…ま、またね!」
満更でもなさそうなすみれは、イケメン侯爵の姿が見えなくなるまで、見つめていた。
極めつけには、





「ティキ…」

すみれからの、この呟き。
心を抉られるには、十分だ。
浮かれていた自分が、どんどん暗く惨めになっていく。


(一人で浮かれて…ダッセェ。)

これ以上、余計なものを見聴きするのは御免だ。
俺は意を決して、声を出す。



「んで?名残惜しい別れは終わったさ?」

「…え…………ディック!!?」


目を細め、口は弧を描き、笑顔を張り付ける。
作った表情とは裏腹に、言葉はキツめになる。
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