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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆


「一緒に帰ろうって、言っただろ?」

「言ってたけど…!」
まさか、同じ馬車で帰れるとは思っていなかった。

「…つーか、随分と名残惜しい別れだったさね?」

「そ、そうかな?」
ディックに見られてしまった
よりによって、自分の想い人に


「最初、お茶会で言い寄られてた時は、すみれもちゃんとガードしてたし?大丈夫かなって思ったさ、」

「え!?」
お、お茶会の時も、見られてた…!!

「けど、最後の最後で…やっぱすみれはあのイケメン侯爵に気を許してんじゃねぇの?」

「っ!そ、それは…ッ!!」
違うよ!と、言う前に

「ま、俺には関係ねえ話だけど。」

ズキッ



関係 ない



「そう、だよね…」


関係ない


はっきりと、言われてしまった。
返す言葉が見つからなくて、すみれは俯く。

ディックと、喧嘩しているわけじゃない。
ただ、本当の事を言われただけじゃないか。

だけど

やっぱり


「関係ない、か…」


自分にしか聞こえない声で、思わず呟いてしまった。


(……キツイ、なあ)

そんなことを思っていると









「……悪かったさ」

「…え?」

「あの時、助けてやれなくて」

「あ、あの時?」

「お姉さん令嬢に、色々言われた時」

「あ…」
すみれはその時のことを思い出す。


「ごめん、な。」

「そ…そんなこと、無いよ!
あの後、その人のティーカップが割れて、お茶会もお開きになったし…!」

「俺がやったんさ」

「え?」

「俺がやったの。ちょっと細工して。話題逸らせて、あわよくばドレス汚れて帰るかな〜って!」
ニシシッと、ディックは悪戯っ子な笑みを浮かべる。

「そう言えば、ディックがお茶を入れてたような…
凄いね、そんなこと出来るの?」

「まあな。…でも、すみれに怒りの矛先がいくのは、予想外だったさ。」

ごめんな、と謝るディックに、すみれは首をぶんぶんと振り否定する。


ずっと。

ディックのことは、何処かの子息かと思っていたが、やっぱり違うと思う。
仕事で使用人になるなんて、子息じゃ考えられない。

ディックは何者なの?

聞きたいけど、聞けない。
特に、今は尚更。

やっといつもの雰囲気に戻ったのに、すみれからこの空気を壊すような真似は、できなかった。
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