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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆



「わっ…?!」



体が宙に浮いたのはティキがすみれの腰を持ち、抱き上げた為であった。

そのまますみれを馬車へ乗せる、その時




ティキは、すみれの頬に口付けをした。


「…友人なら、出来るのはここまでかな」

「ちょっ…え?!」
すみれは何が起きたのか、戸惑うばかりである。


「じゃあな。気をつけて帰れよ」
ティキは馬車を操縦する御者に、出発するよう伝える。
すみれを乗せた馬車は走り出す。



(ちょっと…!?)
何か言葉を発しなければ
すみれはそう思うものの、馬車は走り出したため、ティキとどんどん離れていく。


「ティキっ!…ま、またね!」



今日はちゃんと令嬢できなくてごめん、とか
タバコ吹きかけるの辞めて!とか
友人なら…って、どうゆうこと?とか


何でキスしたの?とか


言いたいことは沢山あったが、やっと言えたのはそれだけであった。
すみれは馬車の窓から、体を出来る限り乗り出す。



「…またな!」

落ちんなよ!と、ティキは手をずっと振ってくれる。
すみれはその様子を、ティキの姿が見えなくなるまで見ていた。







「ティキ…」

ティキの姿が見えなくなり、窓の外を見ながらぽつりと呟く。

その呟きは、誰にも拾われる事は無いーーーー














「んで?名残惜しい別れは終わったさ?」



ーーーーーはず、だった。


「?!?!!」

「お疲れさん」


「…え。





でぃ、でぃ、でぃ……!??



…………ディック!!?」


「おう」

振り返ると、馬車の奥の席に、窓枠に肘を付いて座るディックがいた。



「え?!いつから居たの?!!」

「すみれが馬車に乗る前から。」

「えぇっ…!!?嘘でしょっ…?!」

すみれの心臓は、ばくばくと激しい音を立てる。
吃驚したなんて、そんなレベルではない。


(私、人の視線とかあんまり感じ取れない方だけど…だからって!自分以外の人が、こんな近くにいたのに…っ!)





「ぜ、」

「ぜ?」

「ぜんぜん、気づかなかった…!!」


ディックはニコッと笑い「職業柄さあ〜」なんて言っている。
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