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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆


* * *



すみれは言われた通り、屋敷の正面にてティキを待っている。

令嬢の彼女に言われたことが、頭の中で木霊する。





“事業が上手くいってない”
“危ない事業に手を出した”

“家族とは違う、アジア系”ーーーーー




(この不快感は、なんだろう…)


怒り? 悲しい? 寂しい?

彼女に言われたことが、嫌だったのか?
いや、どれも違う。


これは、




(……不安、なんだ。)


何も知らなかった事が、不安なんだ。
知らなかったことを知り、不安になったんだ。


叔父様と叔母様は、何をしているのだろう?
私は二人の遠縁とはいえ、何故私だけアジア系なのだろう?


二人は私に、何か隠しているのだろうか?



ふと、ある言葉が思い浮かぶ。


(無知は罪なり、知は空虚なり、英知を持つもの英雄なり…)

ソクラテスの言葉、だ。
すみれは超訳を思い出す。



(知らなかった、わからなかったというのは罪。
知識だけあって行動しないのは空しい 。

知識があって行動するものだけが、優れた人ーーー)



最近はディックと勉強をしているし、色んな事を教えてもらった。
だから、何でも知っているような気がしていた。

気がしていた、だけだった。



(なあーんにも、知らなかったな…)

自分の無知さを思い知らされ、恥じる。



帰ったら、調べてみよう。
自分の目で見て、頭で考えて、

噂が、嘘か真か 確認しよう。



(火の無い所に、煙は立たないって言うけど…)


このままでは、いられない。
今すぐ調べたい所だが、明日から始めよう。

だって、今日は



(ディックの、誕生日だもの……)


それは。今日しか、ない。
精一杯、祝いたいじゃないか。

だから、落ち込むのは辞めた!やめやめ!
すみれは自分を奮い立たせる。



(…というか、ディックは何処に行ったの?!)

側で使用人をしているかと思えば、気づいたら姿を消していた。

(一緒に帰ろうって、言ってたくせに…)

思わず頬を膨らませた。
しかし、ディックは仕事で来ている事を思い出すと、すみれの頬は自然と萎んだ。
そんなことをしていると、ふと、タバコの匂いが漂ってきた。



「悪ィ、待たせた」







タバコを咥えた、ティキが来た。
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