第8章 前兆
「だから。
貴族令嬢ちゃんとしたら、一緒に帰るさ。
祝ってくれんだろ?
楽しみにしてる」
ディックのその一言だけで。
さっきまでは、一人で怒って“ごめんね”とか
ディックに会ったら1番に“おめでとう”とか
“お茶会で何を見て、何を聞いたのか”とか
一人でぐるぐる考えてたのに、
誕生日を祝うことを、楽しみにしてくれるって言ってくれただけで、
「……うん」
同じ気持ちだと知っただけで、こんなにも嬉しくなって
“令嬢頑張ろう”なんて、思ってしまうなんて
(私って、単純すぎる…)
すみれは俯き、嬉しさを噛み締めていると、
「すみれご令嬢も、そうお思いでしょう?」
「?!はっ、はい!」
ティキに突然話を振られ、すみれは反射的に返事をするも、不自然な返事をしてしまった。
「まだ気分が優れませんか?
そうでしたら、またお声かけ下さい。」
「あ、ありがとうございます」
ティキはニコニコとしている、が。
見える。私には見える…ッ
余 所 見 し て る な
少し、怒ってらっしゃる。
(ティキ、ごめんって…!)
すみれは慌てて会話に入ろうと努める。
すると、刺々しい言葉を他の令嬢からもらってしまった。
「すみれさん、体調が良くないのでしたらお帰りになられては?
ミック候に何度も付添わせるのは、申し訳ないでしょう?」
この令嬢は確か、ティキに気に入られようと必死になっていると噂されてる人だ。
(そっか。ティキのこと、好きなんだ。)
だから、ティキが私のことを気にかけて面白くないのだ。
(触らぬ神に祟りなし、ね。)
「…ご心配おかけして、申し訳ございません。もう大丈夫ですので」
面倒事に巻き込まれるのは、御免だ。
すみれはそう思い、しおらしく謝罪(する振り)をし、ティキと彼女と距離を取ることにした。
が、
「すみれさん、そう言えばあなたの家…」
彼女の方が、気が済まないらしい。
すみれに突っかかってきた。
「は、はい?」
「事業が上手くいってないって噂、本当かしら?」
え?